ビレーの夕暮れは早く訪れる。ラーンが酒場「灼熱の炉」から飛び出すと、イシェは眉間にしわを寄せていた。「また無駄遣いしたのか?」「いや、今日は特別だ!テルヘルが珍しい遺物見つけたってんだ。明日、一緒に調査に行くらしいぞ!」ラーンの興奮にイシェはため息をついた。最近、テルヘルの依頼で遺跡探索をすることが多くなった。報酬はいいが、危険も増している。
「学派の研究者も興味を示してるって聞いたぞ」ラーンが目を輝かせながら言った。「あの古代文明の知識を独占できるんだ!ビレーに学派ができるかもな!」イシェは学派の存在を警戒していた。学派は独自の解釈に基づいて遺跡を調査し、その成果を独占する傾向があった。地方では学派の影響力は強く、住民の生活にも深く関与していた。
「学派が関わると話が複雑になるぞ」イシェはため息をついた。「テルヘルも危険な目に遭うかもしれない」ラーンの無邪気な笑顔が、イシェには不安に映った。彼女は、テルヘルの復讐心と学派の野望が交錯する中で、ラーンが巻き込まれることを恐れていた。
次の日、遺跡に入る前にテルヘルは言った。「この遺物は学派も欲しがっている。我々が先に手に入れなければ、彼らは手段を選ばなくなるだろう」テルヘルの目は冷たく、覚悟を決めさせるような光を放っていた。イシェはラーンの無邪気な笑顔を思い浮かべ、胸が締め付けられるような思いを感じた。