ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑う声だけが響いていた。「おい、イシェ、また大穴が見つかったら、お前を最初に祝杯に誘うぞ！」
イシェはため息をつきながら、彼の肩を叩いた。「そんなことより、今日の依頼金で食料と宿代を確保できるか心配だ。大穴なんていつ見つかるかわからない」
ラーンの笑顔が一瞬曇った。「そうだな。でもいつか必ず見つけるさ！俺にはその直感があるんだ！」
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。彼女はいつもより表情が硬く、テーブルに重い革袋を置いた。「次の遺跡は、ヴォルダンの領土に近い場所だ。危険だが報酬は倍だ」
ラーンの目は輝いた。「やった！ついに大物か？イシェ、準備万端だぞ！」
イシェはテルヘルの鋭い視線を感じながら、小さく頷いた。最近、テルヘルの態度が冷酷になっていることに気がついていた。ヴォルダンへの復讐心が強まっているのだろうかと不安になった。
遺跡の入り口には、見覚えのある古い石碑があった。「ここを訪れた者は全て…」と刻まれており、イシェは背筋が凍りついた。ラーンは何も気にせず、石碑を蹴飛ばして中へ入っていった。
遺跡内部は湿気と埃で満たされ、薄暗い光だけが差し込んでいた。彼らは慎重に進んでいくが、何かに引っかかるような感覚がイシェを襲う。まるで誰かがこの場所で苦しんで死んだような気がしたのだ。
「何か感じるな…」イシェは呟きながら、ラーンの背後から彼を支えた。ラーンは何も言わず、ただ前だけを見つめていた。
テルヘルは突然立ち止まった。「ここだ」と告げ、奥にある部屋へと向かった。そこには、煌びやかな宝石で飾られた祭壇があった。しかし、その中心には、 desiccated body が横たわっていた。
イシェの胃がむかむかと痛んだ。それは子供のものだった。小さな手は握りしめられ、まるで何かを訴えかけているようだった。
テルヘルは祭壇に手を伸ばし、宝石を一つ取り出した。その瞬間、部屋の空気が冷たくなり、不気味な声が響き渡った。「お前たちは…この場所には来るべきではなかった…」
ラーンが剣を抜いた。「何だこれは！」
イシェは恐怖で体が震えていた。この遺跡に眠るものは、単なる遺物や財宝ではない。何か恐ろしいものに触れてしまったような気がしたのだ。
そして、イシェは自分が孤児であることを思い出した。両親を亡くし、ビレーで育った。その記憶は曖昧だったが、どこかで、この場所に繋がるような気がした。