ビレーの朝焼けが、ラーンの寝顔を撫でた。いつものようにイシェが彼を起こす前に目が覚めたのだ。今日は何かが違う気がした。いつもならイシェと一緒にパンを頬張りながら遺跡に向かうが、今日はイシェの姿がない。
「イシェ? 」
呼びかける声は空虚に響き渡った。ビレーの街並みは静かで、どこか不吉な雰囲気が漂っていた。ラーンは不安を感じながら、イシェの住むアパートへと向かった。
扉を開けると、イシェが床にうずくまっているのが見えた。顔色は青白く、額には冷や汗が滲んでいた。
「イシェ、どうしたんだ?」
ラーンの声にイシェはゆっくりと顔を上げた。彼女の瞳には、今まで見たことのない恐怖の色が宿っていた。
「ラーン…、私、何かを孕んでしまったかもしれない…」
イシェの言葉は震えていた。それは、単なる妊娠ではない、何かもっと恐ろしいものを感じさせるものだった。ラーンの胸にも冷たい風が吹き抜けた。
「何の話だ? そんなわけないだろ」
ラーンは強がるように言ったが、イシェの表情から目をそらすことができなかった。彼女の言葉には、真実が隠されている気がした。
その時、テルヘルが現れた。彼女はいつも冷静な顔つきを崩していた。
「イシェ、どうなった?」
テルヘルの鋭い視線は、ラーンを貫いた。ラーンの心は氷のように冷たくなっていった。
「あの遺跡…、何か邪悪なものが孕んでいて…」
イシェの言葉が断ち切られた。彼女の声は、もう聞こえなくなっていた。