「おいイシェ、準備いいか?」ラーンが太い腕を振って、イシェの目の前に立った。イシェは小さなリュックサックを背負い直し、深呼吸をしてうなずいた。いつも通りラーンの無計画さに呆れていた。「今日はテルヘルさんからの依頼だって言うんだぞ?大物だぞ!」ラーンの目は輝いていた。
「大物か…。」イシェは呟きながら遺跡の入り口へと続く道を進んだ。テルヘルの依頼はいつも高額で危険を伴うものだった。だが、報酬に見合うだけの価値があるのも事実だった。
遺跡内部は湿気が多く、薄暗い光が差し込むだけで暗闇に包まれていた。ラーンは先頭を歩き、イシェは後方から彼を警戒しながら進んだ。テルヘルは二人より少し遅れて歩いてくる。彼女はいつも冷静沈着で、周囲の状況を常に把握しているように見えた。
「ここだ。」テルヘルが立ち止まった。目の前には巨大な石の扉があった。扉には複雑な文様が刻まれており、何かの呪文のようなものが記されていた。
「この扉を開けろ。中にある遺物は我々が欲するものである。」テルヘルは剣を抜き、ラーンに言った。「お前が先頭だ。」
ラーンの表情が曇った。「また危険な仕事か…。」彼はため息をつきながら、扉の文様を注意深く観察し始めた。イシェはラーンの後ろから彼の動きを注視していた。彼女はいつもラーンの無茶振りに巻き込まれることになる。だが、彼と一緒にいると、なぜか安心するのだ。
「イシェ、扉を開ける方法を探せ。」テルヘルが言った。イシェは驚いてテルヘルを見た。「なぜ私が?」「お前には知識があるだろう。あの文様を解読できるはずだ。」テルヘルは鋭い視線でイシェを見つめていた。イシェは小さく頷いた。彼女はラーンの無謀さとは対照的に、冷静に状況を判断し、行動するタイプだった。
イシェは扉の文様をじっくりと観察し始めた。複雑な模様の中に、わずかに見慣れた記号が隠されていた。イシェの記憶が蘇った。かつて祖父が語っていた、古代の言語について。祖父は村の長であり、歴史に精通した人物だった。イシェは彼の教えを思い出しながら、文様を解読しようと試みた。
「わかった…。」イシェは呟き、扉の特定の場所に手を当てた。すると、扉から光が放たれ、ゆっくりと開いていった。その奥には、黄金で輝く部屋が広がっていた。部屋の中央には、神殿のような壮大な祭壇があり、その上に何かが置かれていた。
「あれは…。」テルヘルが息を呑んだ。ラーンも目を輝かせ、イシェも思わず一歩前に踏み出した。三人は祭壇へと近づいていった。
しかし、その時、突然、背後から声が聞こえた。「待て!」
振り返ると、そこには一団の武装した男たちが立っていた。彼らはヴォルダンの兵士だった。テルヘルは顔色が変わった。「Damn it…」彼女は剣を抜き、ラーンとイシェに叫んだ。「逃げろ!」三人は立ち向かおうとしたが、兵士たちは既に周囲を取り囲んでいた。
「逃げるわけにはいかない!」ラーンは剣を構え、勇敢に兵士たちに立ち向かった。イシェも躊躇なく戦闘に加わった。だが、敵は多勢で、ラーンの攻撃は次第に阻まれ始めた。イシェはラーンを守るため必死に抵抗したが、彼女は傷ついていることに気がついた。
その時、テルヘルが叫んだ。「イシェ、逃げるんだ!ラーンを連れて!」イシェは驚いてテルヘルを見た。彼女はラーンを守ろうとするテルヘルの決意に心を打たれた。だが、ラーンもまた、テルヘルを守ろうと必死に戦っているのだった。
「いいえ…!」イシェは涙を流しながら叫んだ。「二人とも…」
その時、突然、背後から一人の男が現れ、兵士たちに襲いかかった。その男は、イシェがかつて見たことがある、村の長の息子だった。彼は婿養子としてヴォルダンに仕え、今は故郷を守るために立ち上がったのだ。彼の勇猛な攻撃で、兵士たちは一時的に混乱した。
ラーンとイシェは一瞬の隙を見て、テルヘルとともに遺跡から逃げ出した。彼らは命を落とすことはなかったが、彼らの前に広がる道は、より困難なものになった。