「よし、今回はあの崩れた塔だな。噂では奥に秘宝が眠ってるらしいぞ」。ラーンが目を輝かせながら地図を広げる。イシェは眉間にしわを寄せた。「またそんな話？ いつも大穴とやらばかり言ってるけど、今まで一度もまともな遺物も見つかった覚えはないじゃないか」。「いや、今回は違うって！ この塔は昔、裕福な商人が住んでたんだって。きっと貴重な品が残ってるはずだ！」ラーンの熱意に押されて、イシェはため息をついた。
テルヘルは静かに二人を見つめていた。「この遺跡には、ヴォルダン軍が以前調査を行っていた記録がある。彼らは何かを発見したらしいが、詳細については不明だ。」彼女の言葉にラーンとイシェは一瞬で顔を見合わせた。「もしかして、あのヴォルダンの兵士が持ち出した宝の行方がわかるかもしれないぞ！」ラーンの興奮は抑えきれない様子だった。
「落ち着いて、ラーン。まずは安全確認だ。遺跡の内部構造や危険な罠について情報収集が必要だ」イシェは冷静に言った。「それに、ヴォルダン軍が何を探していたのか、その目的もわからない。安易に手を出せば、とんでもない目に遭う可能性もある」。テルヘルは同意するように頷いた。
崩れた塔の入り口には、錆びついた鉄格子がかかっていた。ラーンが力任せにこじ開けると、内部は薄暗い闇に包まれていた。「よし、準備はいいぞ！」ラーンの声が響き渡る。イシェは懐中電灯を手に、慎重に塔へと足を踏み入れた。テルヘルは二人が進む後ろからゆっくりとついていった。
塔の中は埃っぽく、朽ちかけた石柱が崩れかけていた。壁には剥げ落ちた絵画の断片が残っていて、かつて栄華を誇っていた様子がうかがえる。ラーンは目を輝かせながら、遺跡の奥へと進んでいく。イシェは彼の様子を見て、複雑な気持ちになった。ラーンの夢を応援したい気持ちと、彼の無謀さに不安を感じている自分自身に戸惑いを覚えた。
塔の最上階には、広間があった。天井の一部が崩れ落ちていて、そこから空が覗いていた。中央には、石造りの祭壇があり、その上に埃をかぶった宝箱が置かれていた。「ついに来たぞ！」ラーンは大声を上げて宝箱に飛びついた。イシェは「待て！ まず安全確認だ！」と叫んだが、ラーンの手はすでに宝箱の蓋を開けようとしていた。
その時、突然床から激しい振動が起こり始めた。壁が崩れ落ち、天井から石が降り注ぐ。ラーンは慌てて宝箱から離れようとしたが、足元が崩れてバランスを崩し、祭壇に激突した。イシェは驚いてラーンに駆け寄り、なんとか彼を助け上げた。
「これは…！」テルヘルが目を丸くして言った。「この塔はヴォルダン軍が仕掛けた罠だったのだ」。イシェは恐怖を感じながらも、冷静さを保った。「すぐにこの場から逃げるんだ！ ラーン、大丈夫か？」ラーンは顔をゆがめて苦痛を訴えた。「あ…足が…」
その時、宝箱が開いていた。中には指輪が入っていた。シンプルなデザインの指輪だったが、その輝きは異質で、まるで空気を吸い込むように見えた。イシェは一瞬にして指輪の意味を理解した。
「これは…」イシェは言葉を失った。それは、ヴォルダン軍が探していたものだった。そして、この指輪がラーンの運命を大きく変えることになるだろう。