「準備はいいか?」ラーンの粗い声がビレーの朝霧を切り裂く。イシェはいつも通り、彼の無計画さにため息をつきながら、小さな地図を広げた。「今日はあの西の丘陵にある遺跡だと言ったじゃないのか。あの辺りはヴォルダンとの国境に近いから危険だろう」
「大丈夫だよ、イシェ。テルヘルが言うように、遺跡には必ず何かがあるんだ。それに、大穴が見つかったら俺たちの人生は変わるぞ!」ラーンは拳を握りしめ、目を輝かせた。イシェは彼の熱意に負けそうになったが、冷静さを保つために深呼吸した。
「大穴なんて見つかるわけないわ。それに、テルヘルは一体何を探しているのかしら…」イシェの心には不安が渦巻いていた。テルヘルはいつも冷たい目で遺跡を調査し、遺物を見つけても表情を変えなかった。その目的は謎に包まれていた。
彼らはビレーを出発し、日差しが強くなるにつれて丘陵地帯へと足を踏み入れた。ラーンの軽快な足取りとは対照的に、イシェは重い足取りでテルヘルについて行った。テルヘルの背中には、いつも冷たい風が吹いているようだった。
遺跡の入り口に着くと、ラーンはいつものように興奮気味に剣を抜いた。「よし、行くぞ!」彼の勇姿に、イシェは思わず微笑んでしまった。しかし、その時、突然、テルヘルが振り返り、鋭い視線でイシェをじっと見つめた。「イシェ、お前は何か隠していることがあるだろう?」
イシェは言葉を失った。テルヘルの目はまるで洞察の光を放っているように見えた。「何の話をしてるの?」イシェは慌てて否定したが、テルヘルはさらに迫ってきた。「ヴォルダンとの国境に近いこの遺跡には、ある特別な遺物がある。それは、お前が望む未来を変える鍵となるかもしれない…」
イシェは背筋が凍り付いた。テルヘルの言葉に、彼女が隠していた秘密が露呈するような気がした。そして、ラーンとの関係、そして将来…イシェの頭の中を混乱させる様々な感情が渦巻いた。
「私は…何も知らないわ…」イシェは必死に言い聞かせたが、彼女の瞳には涙が浮かんでいた。テルヘルはゆっくりと頷き、何かを悟ったかのように微笑んだ。「そうか…では、遺跡に入る前に、お前にも真実を知ってもらう必要があるようだ」