ラーンが錆びた剣を研ぎ澄ます音だけが、薄暗い tavern の中に響いていた。イシェは酒を一口飲み干して、ラーンの肩越しにある男の姿をじっと見つめていた。男はテルヘルだ。黒曜石のような瞳に鋭い光が宿り、唇は薄く引き締まっていた。
「準備はいいか?」テルヘルの声が冷たかった。
ラーンはニヤリと笑って剣を鞘に納めた。「いつでも行くぜ!」
イシェはため息をついた。「あの遺跡…本当に安全なのか?」
テルヘルは答えず、ただ地図を広げ、複雑な地形を指さした。「ここには古い王の墓があるらしい。そこに眠る遺物は、ヴォルダンにとって貴重な情報源になるだろう」
「情報源か…」イシェは眉間に皺を寄せた。テルヘルの目的が単なる遺跡探索ではないことは感じていた。
ビレーを出発してから数日、彼らは険しい山道を進んだ。空には鷹が旋回し、遠くで狼の遠吠えが聞こえる。疲れと緊張感が彼らの心を蝕んでいく。
ついに目的地にたどり着いた時、ラーンは息を呑んだ。巨大な石造りの門が、まるで天を突くようにそびえ立っていた。門には複雑な模様が刻まれており、どこか不気味な雰囲気を漂わせる。
「ここが…」イシェの声が震えていた。
テルヘルは静かに頷き、三人は門の前に立ち止まった。
その時、遠くから馬の蹄音が聞こえてきた。
「誰か来たぞ!」ラーンの声に緊張感が高まる。
門の陰から、何人もの男が現れた。彼らは黒曜石の鎧をまとい、手には鋭い剣を握っていた。リーダーはテルヘルと同じように黒曜石のような瞳をしていた。
「ヴォルダンの者だ!」イシェが叫んだ。
ラーンは剣を抜き、戦いを挑もうとしたが、テルヘルが彼を制止した。
「ここは戦えない」テルヘルの声は冷静だった。「我々の目的は遺物だ。逃げるのだ。」
三人は門の奥に逃げ込んだ。暗い通路を走破する中、イシェは振り返りながら思った。
ヴォルダンとは何か深い因縁があるのか?そして、この遺跡には何が眠っているのか?
その時、イシェは一つの言葉を思い出した。「婚儀」。
テルヘルの言葉の中に、その単語がちらりと浮かんだのだ。ヴォルダンとの復讐と、何らかの「婚儀」を巡る争い。イシェは混乱しながらも、真実を突き止めようと決意した。