「よし、今回はあの崩れかけた塔だ」ラーンが目を輝かせ地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せた。「また危険な場所か？あの塔は地元の人でも近づかないぞ」
「大丈夫だよ、イシェ。僕たちにはテルヘルがいるじゃないか」ラーンは自信満々に言った。テルヘルは冷たい視線で地図を見つめていた。「遺跡の調査は慎重に進めるべきだ。特にヴォルダンとの関係がある場所は注意が必要だ」
「わかってるよ、テルヘル」ラーンの態度にイシェが呆れたようにため息をついた。三人はビレーから塔へと続く山道を行った。道中、ラーンはイシェに昔の話を持ち出した。「お前知ってるか？あの塔の近くに住んでた老人に、昔あの塔で大きな宝を見つけたって話があったんだ」
イシェは苦笑した。「そんな噂を鵜呑みにしてるわけじゃないだろうな。それにあの老人は、ヴォルダン軍に家族を殺された挙句、塔から逃げてきたって聞いたぞ」
ラーンの顔色が変わった。「そうだったのか…」彼は言葉を失った。イシェはラーンの肩を軽く叩いた。「気にしすぎないで。宝なんて見つからないだろう」
塔に近づくと、朽ち果てた石造りの壁が姿を現した。かつての栄華を偲ばせる彫刻が、風雨に晒され崩れ落ちかけている。
「ここに入るには、あの崩れた階段を使うしかないな」ラーンが指さす先には、崩れかけた階段があった。イシェは不安げに言った。「あの階段は危険だぞ。落下の危険もある」
「大丈夫だよ、僕たちならなんとかなるさ！」ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。テルヘルは静かに階段を登り始めた。ラーンとイシェも渋々についていく。
階段を上ると、塔の中心に広がる広間が見えてきた。床には崩れた石像が転がり、壁には剥げ落ちたフレスコ画が残されていた。
「ここが宝物庫か？」ラーンの目が輝き始めた。彼は興奮気味に部屋の中を探し始めた。イシェは警戒を怠らず周囲を見回した。テルヘルは静かに奥へと進み、壁に飾られた古い絵画に目を留めた。
絵画には、かつてこの塔に住んでいた貴族とその家族が描かれていた。その中に、一人の若い女性が写っていた。彼女はどこか見覚えのある顔立ちをしていた。
「この女性…」テルヘルは呟いた。「彼女は何者だ？」
その時、後ろから声がした。「あの絵画は、私の先祖のものです」
三人は振り返ると、背後から一人の男が現れていた。彼は威厳のある風貌で、鋭い眼光を向けていた。男は言った。「この塔は私のものだ。出て行くがいい」