「よし、今回はあの崩れかけの塔だ。イシェ、地図を確認してくれ」 ラーンがそう言うと、イシェは小さな巻物を広げ、細かな線と記号を確かめ始めた。テルヘルは背後から二人を見下ろすように立ち、鋭い視線で周囲を警戒していた。
「あの塔は崩落が激しいみたいね。特に北側壁は危険だ。慎重に進まないと」 イシェの声にラーンは軽く頷いた。いつも通り、彼はイシェの忠告を半分しか聞いていなかったようだが、少なくとも顔色を悪くするほどではない。
「わかった、わかった。でも、あの塔には珍しい魔導石が入ってるらしいぞ!あの石を手に入れたら、ビレー中の酒を飲み干してもいいぜ!」 ラーンの目が輝きだした。イシェはため息をついた。彼の夢はいつも大穴よりも目の前の楽しみばかりだった。
「石の価値はわかるけど、安全第一よ。無理はしないように」 テルヘルが静かに言った。彼女の言葉には重みがあり、ラーンも少しだけ真剣な表情になった。彼女はヴォルダンへの復讐のためにこの遺跡探索に協力しているが、その真意は彼らにはわからない。
「わかった、わかった。イシェ、今回はお前が先頭だ」 ラーンの言葉にイシェはため息をつきながらも、先頭を歩くことに同意した。彼はラーンの無茶な行動を食い止めるためにも、いつも一番前に立っていた。
崩れかけた塔の入り口に足を踏み入れたとき、ラーンとイシェは互いに頷き合った。彼らはそれぞれの理由でこの遺跡に挑んでいるが、今は共通の目標に向かって歩み始める必要があった。
「よし、行こう」 イシェの言葉とともに、三人は塔へと進んでいった。テルヘルは後ろから二人を見つめ、小さく呟いた。「彼らを安全に導くことと、私の目的を達成すること。どちらを優先すべきか… 」
彼女は自分の意思を委ねることなく、状況に合わせて判断していくしかありませんでした。