ビレーの賑やかな市場を背に、ラーンはイシェに肩を叩いた。「よし、今日はテルヘルさんの依頼で、あの『竜の墓』だ!」
イシェは眉間にしわを寄せた。「また危険な遺跡かい?あの場所には、魔物が棲んでいるって噂だよ。本当に大穴が見つかるのかしら…」
ラーンは豪快に笑った。「大丈夫だって!テルヘルさんが言うんだ。あの遺跡には、ヴォルダンが恐れをなした伝説の宝が眠ってるって!」
イシェはため息をつきながら、ラーンの後ろを歩いた。テルヘルは確かに魅力的な報酬を約束してくれるが、彼女の目的は常に不透明だ。ヴォルダンへの復讐という言葉を口にするものの、その手段は時に冷酷で、イシェには理解できないものがある。
竜の墓への道は険しく、獣の咆哮がこだまする深い森を抜ける必要があった。ラーンは軽々と岩を飛び越え、イシェを引っ張っていく。イシェは細身の体で、彼のペースについていくのがやっとだった。
遺跡の入り口にたどり着くと、そこは薄暗い洞窟になっていた。壁には奇妙な彫刻が刻まれており、不気味な空気が漂っていた。「ここが竜の墓か…」イシェは背筋を寒くした。
テルヘルは先頭を歩み、「この遺跡には罠が仕掛けられているかもしれない。注意深く行動するんだ」と警告した。彼女の目は鋭く、何かを察知しているようだった。
洞窟の中を進んでいくと、巨大な竜の骨格が転がっていた。その周りには、宝箱や武器が散乱していた。「ここだ!」ラーンは興奮気味に叫び、宝箱を開け始めた。
しかし、その瞬間、床が崩れ始め、ラーンは深淵へと落ちていった。「ラーーン!」イシェの悲鳴が洞窟中に響き渡った。
テルヘルは冷静さを保ち、「落ち着け、イシェ。私が助け出す」と呟いた。だが、彼女の表情には、どこか安堵したようなものが浮かんでいた。
イシェは恐怖に震えながらも、ラーンのことを心配していた。しかし、テルヘルの行動に疑問を感じ始めた。なぜラーンを助けるのではなく、先に宝箱を開けようとしたのか?
その時、イシェは一つのことに気づいた。テルヘルが常にラーンの危険な行動を後押しし、遺跡へ誘導していること。そして、そのたびに彼女は利益を得ていること。
イシェは恐るべき真実を知った。「テルヘルさんは…ラーンを利用しているのではないか…」