「よし、今日はあの崩れた塔だ!」
ラーンの豪快な声で、イシェは小さくため息をついた。いつも通りの、計画性のない提案だった。
「また遺跡探すの? それより、ビレーの市場で野菜でも売ろうよ。最近、食料が…」
イシェの言葉を遮るように、テルヘルが冷たく言った。
「時間がない。あの塔には、ヴォルダンとの戦いに役立つ情報があると聞いた。私達の目的を忘れているのか?」
ラーンはテルヘルの鋭い視線に少しだけ縮こまった。イシェも、テルヘルの言葉に反論する気力はなかった。
廃墟となった塔の入り口に立ち、ラーンは剣を抜いた。
「よし、行くぞ!」
イシェが後ろからラーンの肩を叩いて注意を促した。
「ちょっと待てよ。あの崩れた壁には罠があるぞ。確認してから入ろう。」
しかし、ラーンの耳には届かなかった。彼はすでに塔の中へと駆け込んでいた。イシェはため息をつきながら、テルヘルに言った。
「いつも通りですね…」
テルヘルはイシェの言葉に頷き、ゆっくりと塔に入っていった。
塔内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。崩れ落ちた石や朽ち果てた家具が、かつて栄えた様子を物語っていた。ラーンは興奮気味に奥へと進んでいく。イシェは慎重に足取りを確かめながら、ラーンの後を続いた。テルヘルは二つの影の後ろをじっと見つめていた。
「ここだ!」
ラーンの声が響き渡った。彼は壁の一角で何かを発見したようだった。イシェが近づいてみると、そこには古い石碑が半分埋もれていた。
「これは…」
イシェが石碑に刻まれた文字を解読しようとすると、突然後ろから音がした。
「待て!」
テルヘルが叫んだが、時すでに遅し。ラーンは石碑に触れた瞬間、床が崩れ、深い穴に落ちていった。
「ラーーン!」
イシェの悲鳴が塔内にこだました。テルヘルは冷静に状況を判断した。
「急いで彼を助けろ! あの穴には…」
テルヘルの言葉を遮るように、穴の奥から不気味な声が聞こえてきた。
「やれやれ…ついに奴隷を見つけ出したようだ…」
イシェとテルヘルは互いに顔を見合わせた。あの声は、ヴォルダンに仕える者たちのものだった。