「よし、今回はあの崩れた塔だな」
ラーンが拳を握りしめた。イシェはいつものように眉間に皺を寄せながら、彼の計画書らしきものを確認した。
「また、地図がないような場所か。ラーン、本当に大丈夫なのか？」
「大丈夫だよ、イシェ。ほら、あの遺跡の近くには古い碑文もあっただろ？きっと何か手がかりがあるはずだ」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。彼と組んで遺跡探索をするようになってから、幾度となく危険な目に遭ってきた。だが、ラーンの無鉄砲さに振り回されながらも、どこか彼の明るさに惹かれていた。
「わかった、わかった。今回は特に慎重にやろう」
その時、後ろから声がした。
「二人とも準備はいいか？今日は私がガイドだ」
テルヘルが鋭い視線で二人を見下ろす。ラーンの顔色が変わった。テルヘルはヴォルダンへの復讐を誓う謎の女性で、彼らに高額な報酬と引き換えに遺跡探索を依頼する。彼女の目的は不明だが、その冷酷さと戦闘力は疑う余地がない。
「よし、では行こう」
テルヘルが先頭を歩き出した。ラーンの顔には緊張の色が見え隠れしていた。イシェは彼の手を軽く握りしめると、深く息を吸った。
崩れた塔の入り口に辿り着くと、そこには不気味な静寂が広がっていた。埃をかぶった石畳と、朽ち果てた柱だけが、かつて栄華を極めたことを物語っている。
「ここには何かあるはずだ」
テルヘルが呟きながら、塔の中へ足を踏み入れた。ラーンとイシェも後を追うように入っていく。
塔の内部は暗く、湿った空気で満たされていた。石畳の上には苔が生え、壁には奇妙な文字が刻まれていた。
「これは…古代語だ」
イシェが呟いた。彼女は歴史や文化を学ぶことに熱心で、古代文明の知識にも精通していた。
「この文字は…契約に関するものかもしれない」
イシェの言葉に、ラーンの表情が硬くなった。彼は本能的に危険を感じた。
「契約？」
テルヘルが鋭い視線でイシェを睨んだ。
「何を知っているのか？」
「私は…ただ…」
イシェは言葉を失った。彼女は自分の知識が、この遺跡探索に深く関わっていることを悟った。そして、その契約が、彼らを破滅へと導く可能性があることも…。