「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂によると奥深くには未踏の部屋があるらしいぞ」
ラーンの興奮した声がビレーの薄暗い酒場で響き渡った。イシェはいつものように眉をひそめた。
「また無計画な話じゃないか。あの塔は危険だぞ。以前、調査隊が奈落に落ちて全滅したという話を聞いたぞ」
「そんなこたぁ気にすんな！俺にはラーンのカンが信じられるんだ！」
イシェの言葉はラーンの耳に入らなかった。彼はすでに酒を飲みながら次の冒険のプランを描いていた。
その時、カウンター越しにテルヘルが口を開いた。「二人が興味を示す遺跡の情報なら持っている。今回は私が案内する。」
彼女の言葉にラーンとイシェは視線を合わせた。テルヘルはいつも冷静沈着で目的意識の高い人物だった。彼女の提案には何か理由があるはずだ。
「どんな情報なのか？」ラーンの問いに、テルヘルは薄暗い目を細めて言った。「ヴォルダンとの国境に近い遺跡だ。そこにはかつてヴォルダンが封印した何かが眠っているという噂がある。」
イシェは息を呑んだ。ヴォルダンと関係する話になると、テルヘルの表情がいつもより硬くなる。彼女は過去にヴォルダンに深い恨みを持っているのだ。
「その遺跡には危険が伴うだろう。奈落の淵に落とされる可能性もある」
ラーンの言葉にテルヘルは頷いた。「だが、そのリスクに見合うだけの価値がある。あの封印されたものの中に、ヴォルダンを滅ぼす鍵があるかもしれない。」
イシェはラーンの顔を見た。彼の目は燃えるように輝いていて、冒険への欲求が溢れ出ているようだった。イシェはため息をつきながら言った。「わかった。今回はテルヘルの案内に従うことにする」
彼らは翌朝、ヴォルダンとの国境に近い遺跡へと向かった。その道中、イシェはラーンの無邪気な笑顔とテルヘルの冷酷な表情を交互に見つめていた。二人はまるで異なる世界の人間のように見えた。
しかし、彼らの前に広がったのは奈落のような闇だった。