「おい、イシェ、準備はいいか？」ラーンが、錆びた剣を片手に、イシェの顔色を伺う。イシェは小さく頷きながら、地図を広げた。「今日はあの崩れかけた塔だな。テルヘルによれば、そこには古い文献が残っているらしい」
「文献か…宝の地図でも書いてあるといいな！」ラーンの目は輝いた。イシェは苦笑する。「そんな甘い話はないわよ。ましてや、ヴォルダンに恨みを持つテルヘルが、ただで情報を与えてくれるわけがないわ」
三人はビレーの遺跡探索者として知られていた。しかし、最近ではテルヘルの依頼で危険な遺跡ばかり潜っている。テルヘルはヴォルダンへの復讐を誓い、そのために必要な情報や遺物を探し求めているのだ。
崩れかけた塔に足を踏み入れた時、冷たい風が吹き抜けた。「ここは…何か違う」イシェは背筋が寒くなるのを感じた。塔の中は不気味な静けさに包まれており、埃まみれの石畳だけが延々と続く。ラーンは剣を構え、周囲を見回す。「よし、気をつけろよ！」
彼らは塔の奥深くへと進んだ。やがて、壁に埋もれるようにして、一冊の書物が見つかった。「これだ！テルヘルが言っていた文献だ！」イシェが興奮気味に声を上げた。ラーンは書物を手に取り、ページをめくる。しかし、そこには文字ではなく、複雑な図形が並んでいた。「何だこれは？」
「…もしかして、これは地図じゃないか」イシェの視線が鋭く光った。「そして、この塔自体が何かしらの仕掛けになっているんじゃないかしら…」
ラーンの顔色が変わった。「つまり、この塔を動かす必要があるってことか？」イシェは頷く。二人は協力し、図形に描かれた記号を解読する。すると、塔の壁にある特定の石を押すことで、塔が回転することを発見した。
「奇策だ！こんな方法で塔を動かすとは…」ラーンは目を丸くする。イシェは冷静に指示を出す。「よし、ラーン、あの石を押してくれ」
ラーンの力強い一撃で、石が動き出した。すると、塔全体がゆっくりと回転し始めた。その先に広がる光景に、三人は息を呑んだ。それは、ヴォルダンに奪われたテルヘルの故郷だったのだ。
「これで…ヴォルダンに復讐できる…」テルヘルは目を輝かせた。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らは奇策によって、予期せぬ真実へと導かれたのだった。