ラーンの豪快な笑い声がビレーの街角に響き渡った。イシェがため息をついた。「また大穴の話か。」「いつか必ず掘り当ててやる!お前も一緒に金持ちだ!」ラーンは目を輝かせながら言った。イシェは苦笑した。「あの遺跡で、また巨大な虫が出てきたって話聞いたぞ。大穴よりも先に、お前が虫に食われちゃうんじゃないかと心配だよ」
その時、テルヘルが静かに口を開いた。「二人はまだ若くて元気だな。だが、この世界には希望だけでは何も手に入らない。特に今は。」彼女の言葉は重く響いた。イシェはテルヘルの鋭い視線を感じて背筋が寒くなった。「あの遺跡、危険だって聞いたよ。ヴォルダンとの国境に近いし、何か変だぞ」とイシェは言った。ラーンは「そんなこと言わずにさ、一緒に大穴を探そうぜ!」と笑い飛ばした。だが、テルヘルの表情は硬く、笑みが消えなかったラーンの姿を見つめていた。
遺跡の入り口で、イシェはラーンを制止した。「ちょっと待てよ。何か変だな」。イシェは地面に落ちている小さな石片を拾い上げた。それはまるで、かつて誰かが記した文字のような模様が刻まれていた。「これは…?」イシェは眉間にしわを寄せた。ラーンは「なんだそれ?早く中に入りたいんだぞ!」と impatience を隠せない様子で言った。テルヘルは石片をじっと見つめた後、「ヴォルダンで使われている紋章だ」と言った。イシェは言葉を失い、ラーンの顔色が変わった。「ヴォルダン…?」ラーンは小さく呟いた。
彼らは遺跡の中へと足を踏み入れた。そこは、薄暗い通路が続く迷路のような場所だった。イシェは不気味な静けさに包まれた空間に緊張した。突然、後ろから何かが襲いかかってきた。ラーンは剣を抜き、素早く攻撃をかわした。だが、その影は巨大な虫ではなく、黒曜石の鎧を着た謎の人物だった。イシェは息をのんだ。「ヴォルダン…」
ラーンの顔は青ざめた。「まさか…こんな場所に…」テルヘルは冷静に状況を判断し、「逃げろ!」と叫んだ。三人は慌てて通路を走り始めたが、後ろから追いかけてくる謎の人物の足音はどんどん近づくばかりだった。イシェは振り返り、絶望的な表情を見せた。
「終わりか…?」ラーンの声は震えていた。その時、テルヘルが何かを叫んだ。「あの部屋に逃げろ!」彼女は迷路のような通路を熟知しているように、素早く走り続けた。ラーンとイシェは彼女の後を追いかけ、なんとか目的の部屋にたどり着いた。そこは、小さな祭壇があるだけの簡素な部屋だった。
「ここなら安全だ」テルヘルが言った。「ヴォルダン兵はここには入れないはずだ。」だが、イシェは不安げな表情で言った。「でも、なんでこんなところに…」その時、祭壇の上にあった石碑に目が留まった。そこには、奇妙な文字が刻まれていた。イシェは息を呑んだ。「これは…あの石片と同じ紋章だ」テルヘルは石碑に手を触れ、「これがヴォルダンの秘密を知れる唯一の場所だと確信した」と呟いた。ラーンは呆然とした表情で、何も言えなかった。イシェは深くため息をつき、失笑した。「結局、大穴も見つからず、また危険な目に遭うとは…」