「おい、イシェ、準備はいいか?」ラーンが、イシェの肩を叩いて言った。イシェは小さな革袋を整理しながら、「いつも急ぐのはやめろよ、ラーン。準備を怠ると後で後悔するぞ」と答えた。
ラーンの無計画さにイシェはいつも呆れていた。特に遺跡探索となると、興奮して周囲を見回し始めるラーンを止められるのはイシェだけだった。テルヘルは「そんなこと気にしない」と笑うが、イシェは彼女の余裕に不安を感じたこともある。
今日の遺跡はビレーから少し離れた場所にある、地元では「眠れる巨人の墓」と呼ばれている場所だった。テルヘルによると、そこにはヴォルダン軍が過去に持ち去ったという古代の武器が眠っているらしい。
「今回は大穴になるぞ!絶対に成功させる!」ラーンの目は輝いていた。イシェは彼の熱意に巻き込まれながらも、「成功」という言葉に少しだけ疑問を感じた。テルヘルが言うように、ヴォルダン軍が持ち去った武器を手に入れることは容易ではないだろう。しかも、なぜテルヘルがヴォルダンへの復讐のために遺跡探索をしているのか、イシェにはいまだに理解できない部分があった。
「準備はいいぞ!」ラーンが叫びながら遺跡の入り口へと駆け込んだ。イシェは深呼吸をしてテルヘルに視線を向け、「何か知っていることがあるなら言ってくれ」と目で訴えた。テルヘルは少しだけ微笑んで、「この遺跡には、ヴォルダンにとって非常に貴重な秘密が眠っているのよ。それを手に入れるために、私はどんなリスクも負う覚悟がある」と答えた。
イシェはテルヘルの言葉に、どこか不気味な予感を覚えた。しかし、ラーンの背中を追いかけるように遺跡へと足を踏み入れた。
「失礼」という言葉が、イシェの頭にちらっとよぎった。