ビレーの tavern に響く賑やかな笑い声とは裏腹に、ラーンの心には重い影が落とっていた。イシェとテルヘルが酒場で盛り上がっている横で、彼はぼんやりと壁の向こう側に広がる山々を眺めていた。
「またあの顔か」イシェの声に、ラーンは顔を上げた。「何かあったのか?」
ラーンの視線の先には、かつてヴォルダン領だった土地が広がっていた。今はエンノル連合の一部だが、そこに住む人々の心はまだヴォルダンへの憎悪と恐怖で支配されている。ラーン自身もその記憶を鮮明に覚えていた。幼い頃にヴォルダンの兵士に襲われ、家族を失ったのだ。
「何もないよ」ラーンは苦い笑みを浮かべ、「ただ、あの山々を見ていると、胸が締め付けられるんだ」
イシェはラーンの言葉の意味を理解していた。彼女は彼とは違う境遇で育ったが、ヴォルダンとの戦いがもたらした傷跡を目の当たりにしてきた。そして、テルヘルが復讐に燃えていることも知っている。
「あの山々には、私たちにとって失われたものがたくさんある」イシェは静かに言った。「いつか、必ず取り戻せる日が来る」
ラーンの心は少しだけ温かくなった。イシェの言葉は希望の光だった。彼は立ち上がり、酒を片手にテーブルに近づいた。
「そうだ!今日こそ大穴を掘り当てて、あの山々を手に入れるぞ!」
ラーンの豪快な笑いは、 tavern の喧騒を一瞬にして飲み込んだ。イシェは彼を見つめながら小さく頷いた。テルヘルも剣を研ぎながら、鋭い目でラーンを見据えていた。
三人は明日、新たな遺跡へと向かう。失われた土地を取り戻すため、そしてそれぞれの夢を実現するために。