「よし、今日はあの崩れかけた塔だな!」ラーンが目を輝かせた。イシェはため息をつきながら地図を広げた。「また遺跡に突進するつもり? テルヘルさんの依頼内容を確認したか?」
ラーンの肩を叩くテルヘルの声は冷たかった。「今回は情報収集だ。あの塔にはヴォルダン軍がかつて占拠していた記録があるらしい。その中に、我々が求めるものがあるかもしれない」
「またヴォルダンか…」イシェは呟いた。「いつまでそんな復讐劇を続けるつもりなんだ?」
テルヘルは鋭い視線でイシェを睨みつけた。「あなたは何も知らない。ヴォルダンが奪ったものは私の人生だ。それを取り戻すために、どんな手段も正当化される」
ラーンは二人のやりとりを聞きながら、いつも通りの無関心な様子だった。遺跡の宝探しに興味があるのはもちろんだが、テルヘルの目的にはあまり興味がない。ただ、彼女に雇われている以上、仕方なくついていくしかないのだ。
崩れかけた塔の中を進んでいくと、壁に奇妙な模様が刻まれていた。「これって…」イシェが声を上げた。「古代文明の記号みたいだ」
「そうか…!」ラーンの表情が明るくなった。「もしかしたら、大穴への手がかりがここに隠されているかも!」
イシェは呆れたように言った。「また大穴か…。そんな夢物語にいつまで惑わされるんだ?」
テルヘルは塔の一室で古い記録を調べていた。そこにはヴォルダン軍の侵攻記録と、ある秘密兵器に関する記述があった。
「これは…」テルヘルの顔が歪んだ。「これがヴォルダンが私から奪ったもの…大義のための道具だ」
ラーンはイシェに肩を叩きながら言った。「なあ、イシェ。大穴が見つかったら、一緒に暮らす場所を買おうぜ!」
イシェは苦笑しながら答えた。「またそんなことを…」
だが、イシェの心の中には、漠然とした不安が芽生えていた。ラーンの無邪気な夢と、テルヘルの復讐心、そして、そこに隠された「大義」と呼ばれる謎。そのすべてが、彼らを暗い影に包み込んでいくように感じた。