ビレーの夕暮れは、赤く染まる空に、山々の影が長く伸びていく。ラーンが酒を片手に、今日も無様な失敗談をイシェに話していた。
「あの時さ、俺が『ここだ!大穴だ!』って言ったじゃん?で、結局ただのハゲワシの巣だったっていう…」
イシェはため息をつきながら、ラーンの肩を叩いた。「もういいわよ、ラーン。今日は諦めよう。明日こそ、きっと何か見つかるわ」
二人が立ち去ろうとした時、テルヘルが背後から声をかけた。「待て。」彼女の瞳には、冷たい炎が燃えていた。「遺跡の調査報告書を手に入れた。新しい情報を掴んだのだ」
ラーンの耳はぴくっと動いた。新しい情報!それは夢幻のような大穴への手がかりかもしれない。イシェはテルヘルの言葉を疑いながらも、ラーンの興奮に巻き込まれていくように、再び遺跡へ向かう決意をした。
夜の帳が下りる中、三人は地図を頼りに奥深くへと進んでいった。遺跡の内部は、崩れかけた石造りの通路や、謎めいた壁画で覆われていた。不気味な静寂の中で、イシェは背筋が寒くなるような感覚に襲われた。
「ここには何かいる…」「ラーン、気配を感じないか?」
ラーンの表情は曇り、剣を握り締めた。「確かに…何かが僕たちを見ているような気がする」
テルヘルは冷静に周囲を観察し、「静かに進め。もし敵が出た場合は、すぐに退避する」と命じた。
進むにつれて、壁画に描かれた奇妙な模様が目立ってきた。それはまるで、夢幻の世界の風景のようだった。イシェは不思議な力に引き寄せられるように、その模様をじっと見つめていた。すると、壁から微かな光が放たれ、模様が動き出した。
「何だこれは…」
ラーンが驚いて声を上げた瞬間、壁一面の模様が輝き始め、部屋全体を包み込んだ。彼らの視界は白く霞んで、意識が朦朧としていくのを感じた。
そして、次の瞬間。三人は見慣れない場所に転げ落ちていた。そこは、今まで見たこともないような、幻想的な世界だった。空には二つの月が輝き、地面には不思議な植物が生い茂っていた。
ラーンは立ち上がり、目を疑った。「ここは…どこだ?」
イシェも恐怖と驚きを隠せない様子で、テルヘルに問いかけた。「これは一体…何なの?!」
テルヘルは沈黙し、遠くを見つめていた。彼女の瞳には、かつて失った故郷を思わせる、深い悲しみと、復讐への強い決意が宿っていた。