「おい、イシェ！また迷ったぞ！」ラーンが後ろを振り返ると、イシェは地図を広げながら眉間にしわを寄せていた。「ここだ、間違いないはずだけど…」イシェの指が地図上の複雑に絡み合う線路をなぞる。
「あの時、テルヘルが言ってた遺跡の場所じゃないか？」ラーンはイシェの言葉を遮り、険しい顔で言った。「あの辺りにあったはずだ…確か、大きな岩に囲まれた谷だった」
イシェは地図を閉じると、ラーンの背中に手を当てて立ち上がらせた。「落ち着いて。あの谷は確かに危険だが、テルヘルが言うように、そこに眠る遺物は価値がある。慎重に進もう」
二人は深い森を切り抜けるようにして進んだ。太陽の光が木々の隙間から差し込み、埃舞う道を照らしていた。やがて視界が開け、切り立った岩壁に囲まれた谷が見えた。谷底には崩れかけた石造りの建造物があり、苔むした石板が一面に広がっていた。
「ここだな…」イシェは呟き、ラーンと互いに頷き合った。テルヘルは遺跡の調査を依頼する際に、遺物の価値について詳しく語っていた。特に、古代文明が使用していたという謎の金属片は、その特殊な性質から莫大な富をもたらす可能性があると噂されていた。
谷底に降り立つと、不気味な静寂が二人を包み込んだ。崩れかけた石造りの建物から、かすかな光が漏れているのが見えた。「何かあるぞ…」ラーンの視線が鋭く光る。イシェは慎重に足取りを確かめながら、ラーンに続くように進んでいった。
建物の内部は暗く、埃っぽかった。壁には奇妙な模様が刻まれており、何とも言えない不気味さを漂わせていた。二人は懐中電灯の光を当てて周囲を探しながら、ゆっくりと進んでいった。
「ここだ…」イシェが石造りの扉の前に立ち止まった。扉の上には、古代文字で何かが書かれている。「これは…？」ラーンの視線が扉に釘付けになった。イシェは慎重に扉を開けようとしたその時、背後から声がした。「待て！」
二人が振り返ると、そこにはテルヘルが立っていた。彼女の顔は緊張の色を帯びていた。「ここは危険だ。この遺跡には、ヴォルダンとの関係で…外戚と呼ばれる一族の影が深く関わっている」
ラーンの眉間にしわが集まった。「外戚って…？一体どういうことだ？」イシェも困惑した様子でテルヘルに問いかけた。
「説明する時間はない。とにかく、この遺跡は触らぬほうが良い…」テルヘルの言葉は断ち切られた。谷底から不気味な音が響き渡り、地面が激しく揺れ始めた。ラーンとイシェは驚いてバランスを崩し、近くの柱に掴まりながら立ち直った。「これは…！」イシェの顔が青ざめた。
「ヴォルダンだ！この遺跡を狙っていたのだ！」テルヘルは剣を抜き、戦いの姿勢をとった。二人は一瞬のうちに状況を理解した。遺跡の真実はまだ明らかになっていなかったが、今、自分たちはヴォルダンの襲撃から身を守る必要があるのだ。