「おい、イシェ！あの石碑の隙間、見てみろよ！」ラーンの声が響き渡り、イシェは溜め息をついた。ラーンは今日もいつものように、遺跡の中をまるで遊び場のように駆け回っている。「また、大穴だなんて言ってるわね」イシェはそう呟くと、石碑の隙間をのぞき込んだ。そこに確かに何か光るものが隠れているようだった。「よし、テルヘル、こっちに手を貸してくれないか？」ラーンが言った時、テルヘルは眉をひそめた。「この遺跡には何かあるはずだ。ヴォルダンの奴らも目を付けているだろう」テルヘルはそう言いながら、石碑の隙間を慎重に調べ始めた。
「何だこれは？」イシェが石碑から小さな水晶を取り出した瞬間、周囲の空気が重くなった。水晶は奇妙な模様で覆われており、まるで生きているかのように光り輝いている。「この模様…どこかで見たことがあるような…」イシェは目を細めた。
その時、遺跡の外から激しい音が聞こえてきた。「ヴォルダンの兵士だ！」ラーンが叫んだ。「逃げろ！」テルヘルはそう言いながら、水晶を握り締めた。
三人で遺跡から脱出する際に、イシェは水晶の模様に描かれた記号が、かつて見た古い書物に載っていた外交文書の紋章と一致していることに気づいた。この水晶は単なる遺物ではないのかもしれない。ヴォルダンが欲しがるのも当然だ。
「この水晶を手に入れたからには、ヴォルダンとの交渉材料になるかもしれない」テルヘルはそう言った。「この水晶の秘密を解き明かせば、エンノル連合だけでなく、ヴォルダンをも巻き込んだ外交交渉に利用できる可能性がある。そして、我々の目的にも近づける…」
イシェはテルヘルの言葉に少しだけ希望を感じた。水晶の謎が解け、エンノル連合とヴォルダンの関係に変化をもたらす可能性があるのかもしれない。