ラーンの豪快な笑い声がビレーの狭い路地裏にこだました。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の背中に手を置いて制止した。
「もう少し静かにしろよ、ラーン。近所に怒られるぞ」
「ははは、気にすんなイシェ。今日はいい気分なんだ！」
ラーンの肩には、テルヘルからもらった地図がそびえ立っていた。遺跡探査の依頼を請け負ってからというもの、ラーンはいつも以上に活発だった。高額の日当と、テルヘルの提供する情報が彼を刺激していたのだろう。
「今日の目標はあの遺跡だぞ。テルヘルによると、そこには古代文明の遺物が眠っているらしい」
イシェは地図を指さしながら言った。地図には、ビレーから少し離れた山裾にある崩れかけた石造りの建造物が記されていた。
「しかし、あの遺跡は危険だと言われているぞ。以前、別の探検隊が中に迷い込んでしまい、そのまま戻らなかったという噂もある」
イシェの言葉にラーンは不自然なほどに平静を装った。「そんな話はどうでもいいんだ！俺たちに危険なんてないだろう？それに、あの遺跡には大穴があるかもしれないんだぞ！」
イシェはラーンの言葉を真顔で受け止めた。彼の瞳には、いつも以上に強い決意が宿っていた。
「わかった。では、準備を始めよう」
二人は荷物をまとめ始めた。夕暮れ時になり始めた空に、黒い雲がゆっくりと漂い始めた。遠くで雷鳴が轟き始めると、イシェは不安げな表情を見せた。
「ラーン、もしかして雨が…」
「大丈夫だ、イシェ。そんな雨で俺たちを止めるわけがない！」
ラーンの言葉は自信に満ちていたが、イシェは彼の背中にちらつく影を感じた。夕立の始まりは突然だった。激しい雨が降り始めたとき、彼らはまだ遺跡への道半ばだった。