ラーンが、巨大な石の扉をこじ開ける。埃っぽい風が吹き込み、イシェが咳き込んだ。
「よし、ここだ！」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。いつも通り、計画性のない行動だった。だが、夕焼け色の光が差し込む遺跡の内部は、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。
「ここは一体…？」
イシェが呟くと、テルヘルが近づいてきて、石碑に刻まれた文字を指差した。
「古代文明の寺院跡らしい。ここに眠る遺物は、ヴォルダンに奪われたはずのものだ」
テルヘルの目は冷たかった。ラーンは剣を構え、イシェは慎重に足取りを確かめた。遺跡の奥深くへと進んでいく三人。夕焼けが、彼らの影を長く伸ばしていく。
通路の壁には、まるで警告のように奇妙な絵文字が刻まれていた。イシェが近づいてよく見ると、それは古代の呪文だったことに気がついた。
「ラーン、待て！」
だが、ラーンの注意は既に別の場所に奪われていた。宝箱が光り輝いているのだ。興奮を抑えきれない様子で、彼は宝箱に手を伸ばそうとしたその時、床が崩れ、ラーンは深い穴に落ちてしまった。
イシェとテルヘルが慌てて駆け寄るも、穴からはラーンの叫び声だけが聞こえてくる。夕焼けの光が、穴の底に差し込む。そこには、ラーンの姿が見えた。
「助けて…！」
イシェは手を伸ばしたが、届かない。テルヘルは落ち着いて状況を判断した。
「イシェ、あの呪文を解読しろ！ラーンを助けられるかもしれない」
イシェは必死に呪文を暗記する。夕焼けが沈み始め、影が濃くなるにつれ、イシェの焦りも募っていく。
その時、イシェの目に何かが光った。それは、ラーンの足元にある小さな石碑だった。そこに刻まれたのは、呪文の一部だった。イシェはすぐに呪文を唱え始めた。
「光よ、暗闇を照らせ！真実を明らかにせよ！」
すると、穴の底から不思議な光が湧き上がり、ラーンを包み込んだ。そして、ゆっくりとラーンは地面に浮上してきたのだ。
夕焼けが完全に沈み、夜空に星が輝き始めた時、三人は遺跡から脱出した。ラーンは無事だった。イシェは安堵した。テルヘルは、どこか冷静に見守っていた。
「あの石碑…一体何を意味するんだ？」
イシェが呟くと、テルヘルは深い視線で夕空を見上げた。
「それは…」
彼女は言葉を濁すように言った。
「また別の物語が始まる前触れに過ぎない」