ビレーの夕暮れは、いつもより早く訪れたように思えた。空は茜色に染まり始め、山々の影が街に長く伸びていく。ラーンはいつものように、イシェとテルヘルを前に酒場から飛び出した。
「今日はいい感じの夕凪だな」
ラーンの言葉に、イシェは眉をひそめた。「そんなこと言って、また遺跡へ行くつもりか? 今日の探索で手に入れたのは、錆びた剣と割れた壺だけじゃないか。もうしばらく休んで、次の計画を立てようよ」
「いや、あの遺跡にはまだ何かあるはずだ! 今日は夕凪だから、きっと運がいいぞ!」
ラーンの熱意に、イシェはため息をついた。テルヘルが冷たく言った。「計画性がないのは、お前だけではない。イシェの慎重さも必要だが、時には大胆さが必要だ。私は、この遺跡で何かを見つけた」
テルヘルは小さな袋から、埃っぽい石を取り出した。それは、不規則に形が崩れた黒曜石だった。表面には、わずかに光る紋様が刻まれていた。「これは、ヴォルダンの遺跡で見つけたものと似ている。あの遺跡は、まだ完全には調査されていない。夕凪の夜は、魔力が活性化すると言われている。今夜は、あの遺跡へ行くべきだ」
ラーンの目は輝き、イシェの表情も少し緩んだ。夕暮れ時の街並みを、三人は背にしながら、山に向かって歩き始めた。遠くに見える、ヴォルダンとの国境に沈む太陽は、まるで燃え尽きる炎のように赤く輝いていた。