ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝を告げた。イシェはいつものように溜息をつきながらパンを頬張った。「また大穴だなんて、どこからそんな話を持ち出したんだ?」
「だって、昨日見た遺跡の壁画に描かれてたんだよ!黄金で輝き、宝石で飾られた大穴が…」ラーンの目は夢に向かって輝いていた。イシェは彼の熱意に心を痛めた。あの絵は単なる装飾にしか見えなかった。
「現実的な話、テルヘルさんの依頼を受ける方が良いんじゃない?」
「ああ、確かに報酬は魅力的だけど…」ラーンは少しだけ顔色が曇った。「でもさ、大穴を見つけるって夢があるだろ?僕たちにはそれが出来るんだ!」
イシェはため息をついた。「わかった、わかった。今回は君の言う通りにしよう」
テルヘルはいつものように冷静に指示を出した。「あの遺跡の奥にある部屋を目指せ。そこには何か重要なものが隠されているはずだ。そして…」彼女は鋭い眼光でラーンとイシェを見据えた。「触れるな。持ち帰るな。ただ、その存在を確認するだけで十分だ」
遺跡内部は湿気が多く、埃っぽい空気が充満していた。ラーンの腕力は頼りになったが、イシェの慎重さがなければ進めなかっただろう。
ついに奥の部屋にたどり着いた時、二人は言葉を失った。そこには巨大な水晶が鎮座し、その周りには複雑な模様が刻まれていた。水晶からは不思議な光が放たれ、部屋全体を不気味な輝きで満たしていた。
「これが…?」ラーンは目を丸くした。イシェも彼の言葉を待つように静かに水晶を見つめていた。
突然、水晶から強い光が噴き出し、二人は目をしかめた。光が収まると、そこには…何も無かった。水晶も模様も全て消え去り、そこはただの空洞だった。
「何…?」ラーンは困惑した様子で空洞を覗き込んだ。「一体何が…?」
その時、イシェが何かを感じ取った。床に落ちている小さな水晶の破片を拾い上げると、そこには奇妙な模様が刻まれていた。それはまるで…
イシェは息をのんだ。あの巨大な水晶が変貌したのか?それとも、何か別のものが現れたのか?答えは分からなかった。しかし、この出来事の意味は計り知れないものだった。
ラーンは相変わらず大穴を探しているが、イシェの心には新たな影が忍び寄っていた。ビレーの平和な日常は、もう戻らないかもしれない。