ラーンの大剣が石壁を切り裂き、埃が立ち込める中、イシェは薄暗い遺跡の奥へと進む光を確かめた。「ここだな」。イシェの指さす方向には、幾何学模様が刻まれた石棺が鎮座していた。テルヘルが緊張した面持ちで近づき、棺の上を慎重に撫でた。「これは…ヴォルダン王家のcrestだ」。
「王家の墓か？財宝が眠っているかもな！」ラーンの目が輝いた。イシェは眉間に皺を寄せた。「何かの罠かもしれないぞ」。だが、ラーンはすでに興奮気味に石棺の蓋を開けようとしていた。テルヘルは静かに手を挙げた。「待て。まずは周囲を確認する必要がある」。
その時だった。背後から甲高い声が響き渡った。「今、この遺跡を包囲しました！降伏すれば命を助けてやろう」。
ラーンの顔色が変わった。「ヴォルダンか！」。イシェは冷静に状況を判断した。「逃げ道がない。戦うしかない」。テルヘルは剣を抜いた。「いいだろう。だが、我々は戦わない。お前たちに取引を持ちかける」。
「取引？」敵の声は嘲笑を帯びていた。「何を持ち出すつもりだ？」テルヘルはゆっくりと石棺の蓋を開け始めた。「この王家の墓から、お前たちには必要のないものを見せたかったのだ」。石棺の中には、金銀財宝ではなく、一枚の古い地図が置かれていた。それはヴォルダン王国の秘境を示す地図だった。
「これは…！」敵の声に驚きと興奮が混じっていた。「なぜ…」テルヘルは冷たく言った。「この地図を手に入れたのは、我々だ。お前たちには価値がない」。ラーンは困惑した。「テルヘル、何をしているんだ？」イシェも混乱していた。「地図を奪うつもりなのか？でも…」
テルヘルは振り返り、ラーンとイシェの顔を見つめた。「私は、ヴォルダンに復讐する。そして、そのために必要なものは何でも手に入れる」。彼女は敵に向かって言った。「この地図と引き換えに、我々を解放しろ」。敵は一瞬躊躇した。地図の価値を知り尽くした彼らは、すぐに条件を受け入れた。
ラーンとイシェは、テルヘルの行動に戸惑いながらも、無事に遺跡から脱出できた。しかし、イシェの心には不安がつきまとった。テルヘルは本当にヴォルダンの復讐を果たすために地図を使うのか？それとも、何か別の目的があったのか？そして、ラーンはいつまでも彼女の嘘を信じてくれるだろうか…
夜空に輝く星を見上げながら、イシェは深くため息をついた。この冒険は、彼らをさらに深い闇へと引きずり込むようだった。