「準備はいいか？」テルヘルが鋭い視線でラーンとイシェの顔を見据えた。「あの遺跡は危険だ。特に奥深くには未踏の領域がある。な、何か変だぞ？」イシェが警戒するように周囲を睥睨した。「いつもより静かだな。鳥の声も聞こえない」ラーンの顔色がわずかに曇る。「ああ、気にするな。そんなことくらい気にしないんだ」ラーンは強がって笑ったが、彼の瞳には不安が宿っていた。
テルヘルは冷静に言った。「気を引き締めておく必要がある。遺跡の奥深くには、古代人の禁忌を司るものがあると伝えられている。もし、何か変を感じたらすぐに引き返すんだ」イシェは頷く。「わかった。テヘルの言う通りだ。」ラーンは不機嫌そうに首を傾げた。「またお説教かい？」
彼らは遺跡へと足を踏み入れた。崩れかけた石造りの通路は、時が止まったかのように静寂に包まれていた。埃っぽい空気が彼らの肺を刺し、石畳の上で足音が不気味に響く。進むにつれて、周囲の気温が下がり、湿った冷気が肌にまとわり付くようになった。
「ここからは特に注意が必要だ」テルヘルが低く囁いた。「この遺跡には、古代人が遺した様々な仕掛けがある。触らないものに触るな、動かさないものを動かすな。」イシェは頷き、ラーンの肩を軽く叩いた。「気をつけろよ」ラーンは小さくうなずきながら、剣を握り締めた。
彼らは慎重に進むにつれて、壁画や彫刻が刻まれた部屋に出会う。古代の文字が壁一面に描かれており、その複雑な模様はまるで呪文のようだった。イシェは興味深そうに壁画を眺めた。「これは何を描いているのだろう？」「誰にも解読できない謎の言語だ」テルヘルが答えた。「だが、一つ言えるのは、この遺跡には古代人が秘めていた力、そして危険が眠っているということだ。」
彼らはさらに奥へと進んでいくにつれて、空気がより一層重くなり、圧迫感が増していった。まるで、何かが彼らをじっと見つめているような気がした。ラーンの背筋に冷たいものが走り、不吉な予感を感じた。
「何か変だ…」イシェが呟いた。「この空間…何かを吸収しているように感じる」ラーンは緊張した表情で周囲を見回し、「何だ？一体何なんだ？」彼は恐怖と興奮を同時に感じていた。
その時、床の真ん中から突然光が放たれた。それは青白く冷酷な光で、周囲の空気を凍りつかせるように冷やしていった。ラーンは目を細め、光に目を向けようとしたが、その瞬間に激しい痛みを感じ、意識を失ってしまった。
「ラーン！」イシェの声が遠く聞こえたような気がした。彼はゆっくりと目を覚ますと、そこは白く清潔な部屋だった。
「ああ、やっと起きたんですね」テルヘルが微笑んで彼に近づいてきた。「どうだ？無事か？」イシェは驚き、慌ててラーンを助け起こした。「大丈夫か？何があったんだ？」ラーンの頭はぼんやりとしていた。「覚えていない…ただ、光があって…」彼は意識が朦朧とする中、テルヘルの言葉を聞いた。
「ここは安全な場所だ。君は今、変換されたのだ」ラーンの目は恐怖で大きく見開かれた。「変換…？一体どういうことだ？」テルヘルはゆっくりと口を開き、「それはもう、君には関係ないことだ」と言った。