ビレーの朝焼けは、いつもより少しだけ鮮やかだった。ラーンは寝起きのイシェの肩を叩いて、「今日こそだ!大穴が見つかるぞ!」と豪語した。イシェは眠い目をこすりながら、「またか…」と呟き、いつものようにラーンのペースに巻き込まれていく。
彼らはテルヘルと共に、山間の遺跡へと向かった。最近、テルヘルが持ち出した情報によると、その遺跡にはかつてヴォルダン王家の財宝が隠されているという噂があった。テルヘルはヴォルダンの復讐のため、その財宝を手に入れようと躍起になっていた。ラーンとイシェにとっては、高額な報酬が期待できるという点で十分だった。
遺跡の入口は崩れかけており、風化した石畳が不安定に伸びていた。ラーンは先陣を切って、軽々と石畳の上を進んでいった。イシェは慎重に足場を確認しながら、ラーンの後を追った。テルヘルは常に二人を見下ろすような視線で、後ろからついてきた。
遺跡内部は薄暗く、湿った臭いが漂っていた。壁には古びた絵画が描かれ、その様子からかつて栄華を極めた文明を感じさせた。しかし、今は静寂に包まれ、まるで時間が止まったかのような不気味な空気が流れていた。
「ここだ。」テルヘルが突然立ち止まり、崩れた壁の隙間を指さした。「この先にある部屋には、財宝が眠っているはずだ。」
ラーンは興奮気味に頷き、イシェも少し期待を抱いた。しかし、その瞬間、床から黒い煙のようなものが噴き出し、部屋全体を覆い始めた。煙が晴れると、そこには巨大な影が立っていた。それは、かつてこの遺跡を守っていた守護者であったようだ。
「まさか…」イシェは言葉を失った。ラーンは剣を抜いて構えたが、その影の前に立ち向かう自信はなかった。テルヘルは冷静に状況を判断し、「逃げろ!」と叫んだ。
三人は慌てて遺跡の外へ逃げ出した。しかし、守護者は執念深く追いかけてきた。ラーンの足取りが遅れたとき、イシェは体を張ってラーンを庇った。
「イシェ!」ラーンは悲鳴を上げた。イシェは倒れながらも、かすかに微笑んだ。「…行け…」
その瞬間、守護者の影がイシェにかぶりつき、消滅した。静寂が戻り、残ったのはイシェの無惨な姿だけだった。
ラーンは絶望に打ちひしがれ、テルヘルは復讐への怒りに燃えた。二人の心には、大きな変化が起こっていた。それは、単なる遺跡探索ではなく、命を懸けた戦いの始まりだと気づいた瞬間だった。