ビレーの酒場「錆びた剣」の中、ラーンが豪快に笑う声が響いた。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の隣に座った。
「また大穴の話か?」
「いや、今回は違うんだ!あの遺跡の奥深くで、古代の人々が使ったって噂の金貨が見つかったらしいんだ!」
ラーンの目は輝き、興奮気味に話していた。イシェはため息をついた。ラーンが言う「大穴」は、彼にとって永遠の夢であり、現実にはほとんど意味のないものだった。
「金貨?そんな話を聞いたのは初めてだ」
「本当だぞ!テンプル騎士団が調査に入ってるらしいし、もし見つかったら大金になるだろう!」
イシェはラーンの熱意に冷静に切り返した。
「テンプル騎士団はヴォルダンからの依頼で遺跡を調査している。もし金貨が見つかったら、ヴォルダンのものになるだろう」
ラーンは少し沈んだ様子を見せたが、すぐに目を輝かせた。
「それじゃあ、俺たちでも何かできるんじゃないか?テンプル騎士団に協力すれば、報酬をもらえるかもしれないし…」
イシェはため息をつきながら、ラーンの話を遮った。
「そんな危険なことはするな。テンプル騎士団はヴォルダンに従う組織だ。彼らと関わるのはリスクが高いぞ」
その時、背後から冷たそうな声が聞こえた。
「危険と言ったのはあなたですか?」
イシェとラーンが振り返ると、テルヘルが立っていた。彼女の鋭い視線は、まるで氷の刃のように冷たい。
「テンプル騎士団の情報を得るには、彼らに近づいて交渉する必要がある。その際に、あなたの知識と経験が必要だ」
テルヘルの言葉は、まるで命令のようだった。ラーンは興奮気味に頷き、イシェは渋々ながらも同意した。
「よし、わかった。テンプル騎士団に接近して情報を探る。でも、報酬はしっかりもらうぞ?」
ラーンの言葉に、テルヘルはわずかに口角を上げる。
「もちろん、あなたたちの貢献に見合った報酬は支払います」
その夜、ビレーの酒場「錆びた剣」で繰り広げられた会話は、やがて大きな渦の中に巻き込まれていくことになる。彼らの運命は、遺跡の奥深くにある謎と、ヴォルダンとの戦いに深く結びついていくのだ。