ラーンの大剣が遺跡の奥深くへ轟く音が響いた。埃煙が立ち込め、視界を遮る。イシェは咳き込みながら、「また無駄なことを…」と呟いた。
「ほら、何かあるぞ!」ラーンは興奮気味に叫び、崩れかけた石柱の間を駆け抜けていった。イシェはため息をつきながらそのあとを続けた。いつもこの調子だ。計画性のない行動で危険ばかり招く。だが、彼の無邪気な笑顔と仲間への情熱には、イシェ自身も惹かれてしまう。
「ここだ!」ラーンの声がした。石室の奥に、祭壇のようなものが鎮座していた。その上に置かれた箱は、明らかに人為的に作られたもので、装飾が施されている。
「よし、大穴だ!」ラーンは目を輝かせながら箱に手を伸ばしたが、イシェが彼を制止した。「待て!まずは確認だ」と慎重に箱を調べ始めた。
その時、背後から冷たく低い声が響いた。「見つけたようだな、いい仕事をした」
振り返ると、テルヘルが立っていた。彼女の鋭い視線が箱に向けられている。ラーンは「テルヘルさん!」と驚いて声を上げたが、イシェは不吉な予感を覚えた。テルヘルの表情は、いつもより冷酷だった。
「箱の中身を見せてくれ」テルヘルはそう命じた。ラーンの顔色が変わった。「えっと…でも、報酬…」
「報酬は後でだ」テルヘルは剣を抜き、ラーンを睨みつけた。「今すぐ中を開けろ」
イシェは状況を理解した。テルヘルは箱の中身を独占しようと、彼らを利用していたのだ。裏切りだったのだ。ラーンの顔には絶望が浮かび、イシェも怒りと悲しみで胸が締め付けられた。だが、今ここで抵抗しても無駄だと悟り、イシェは冷静さを保った。「待ってください!」と声を上げた。「箱の中身は…」
その時、箱の蓋が開けられ、中から溢れ出す光に目が眩んだ。その瞬間、テルヘルは驚愕の声を上げ、後ずさった。
「何だこれは…!」
イシェもラーンも目を丸くした。箱の中には、宝石や金貨ではなく、複雑な機械仕掛けがぎっしり詰まった装置があった。それは遺跡の古代文明の技術を示すものであり、その価値は計り知れないものだった。
テルヘルは慌てて箱に手を伸ばそうとしたが、イシェが立ちふさがった。「やめなさい!これは…」
だが、その時、装置から不気味な音が響き始めた。光が激しく点滅し、床が震え始めた。
「逃げろ!」イシェはラーンを引っ張り、遺跡の外へ駆け出した。テルヘルも後を追うように逃げた。
崩壊する遺跡の背後には、巨大な爆発が起こり、空一面に炎と煙が巻き上がった。三人は安全な場所に避難し、息を切らした。
イシェは振り返り、崩れ落ちた遺跡を見つめた。テルヘルは立ち去ろうとしていたが、イシェは彼女に呼びかけた。「待ってください、テルヘルさん。あなたは…」
テルヘルは振り返り、「あの箱の中身は…?」と尋ねた。
イシェはゆっくりと答えた。「あの装置は、ヴォルダンを滅ぼす力を持っているかもしれません」