ビレーの朝日は、まだ街に影を落とす高い山々に遮られていた。ラーンはイシェの寝顔を見ながら、思わず笑みを浮かべた。彼女はいつもより早く起きようと決意していたらしい。
「準備はいいぞ？」ラーンの声でイシェは目を覚まし、眠気を払いながら顔を洗った。今日はテルヘルが指定した遺跡に向かう日だ。
「あの遺跡は、一体どんなものなのだろう…」イシェは地図を指さし、呟いた。テルヘルは、その遺跡に眠るという「壮麗な王冠」の情報を手に入れたという。それが、彼女の復讐計画に不可欠なものらしい。
ビレーを出ると、空には薄雲が漂い、遠くで雷鳴が轟くのが聞こえた。不吉な予感を感じたイシェはラーンに視線を向けると、彼はいつものように無邪気に笑っていた。「今日はきっと大穴が見つかるぞ！」と、ラーンは叫び、剣を肩越しに見せつける。
遺跡への道は険しく、深い森を越え、急な崖を登らなければならない。イシェは慎重に足場を選んで進み、ラーンの後ろをついていく。テルヘルは、先頭を歩いていたが、時折振り返り、二人の様子を伺っているようだった。彼女の目は鋭く、まるで獲物を狙う獣のようだった。
遺跡の入り口には、巨大な石造りの門があった。門の上には、風化し始めた彫刻が施されており、かつての壮麗さを伺わせるものがあった。イシェは、その彫刻に描かれた模様をじっと見つめた。どこかで見たことがあるような気がしたのだ。
「よし、行こう！」ラーンは、門をくぐろうとすると、テルヘルが手を上げた。「待て」テルヘルは静かに言った。「何か不自然だ…」彼女は目を細め、周囲を見回した。
その時、地面が激しく揺れ始めた。イシェはバランスを崩しそうになったが、ラーンの腕に助けられた。「何だこれは！」ラーンの叫び声が、轟く雷鳴に掻き消されそうになった。
崩れかけた壁から、巨大な影が姿を現した。それは、かつての王を守るために造られたゴーレムだった。その姿は壮麗で恐ろしく、石と金属が組み合わさって作られたその体は、まるで生きているようだった。
「逃げろ！」テルヘルが叫んだ。ラーンは剣を抜いて構え、イシェは後ずさりしながら、地図を握り締めた。
彼らの前に立ちはだかったゴーレムは、復讐に燃える女性と、大穴を求める若者たちの運命を変えていくことになるだろう。