ビレーの酒場「荒くれ者」で、ラーンが豪快に笑い声を上げながら酒を傾けていた。イシェは彼とは対照的に、静かに杯を手に取り、ラーンの背後にあるテルヘルを見つめていた。テルヘルの表情はいつも通り硬く、彼女の視線は遠くのどこかを向いているようだった。
「なあ、イシェ。お前も俺と一緒に大穴を掘り当てて富豪になろうぜ！」ラーンがそう叫んだ時、イシェは小さくため息をついた。「そんな夢を見るのはもうやめなさいよ、ラーン」と彼女は言った。「現実を見ろ。あの遺跡から見つかるのはいつも埃と錆びた道具ばかりだ。大穴なんて存在しないんじゃないか…」
ラーンの顔色が変わった。「おい、イシェ！お前は俺を信じないのか？」彼は怒ったように言ったが、すぐにいつもの笑顔に戻り、「ま、いいさ。俺にはテルヘルが味方になってくれるからな！」と笑い飛ばした。
テルヘルは彼の言葉に何も反応を示さず、ただ静かに酒を飲んでいた。彼女の視線は、まるでラーンの心の中まで見ているようだった。イシェはテルヘルの不気味な存在感を肌で感じるたびに、不安が募るのを抑えきれなかった。
次の日、彼らはいつものように遺跡へと向かった。しかし、今回は何かが違った。いつも通りの活気のない空気ではなく、どこか重苦しい雰囲気が漂っていた。遺跡の入り口には、見慣れない紋章が刻まれていた。
「これは…」ラーンが眉をひそめた。「ヴォルダンか？」イシェも緊張した表情で言った。「なぜこんな場所に…」。テルヘルは何も言わずに、ただ鋭い目で紋章を睨んでいた。
彼らは遺跡の中へと足を踏み入れた。しかし、いつものように遺跡の奥深くまで進む前に、彼らの前に壁が現れた。それは厚い石の壁で、そこには複雑な模様が刻まれていた。
「これは…！」ラーンの声が震えた。「開けることができるのか？」イシェは不安げに言った。テルヘルは沈黙を保ちながら、壁の模様をじっと見つめていた。彼女の指が、まるで何かを感じ取ったように、ゆっくりと壁に触れた。すると、壁に刻まれた模様がわずかに光り始めた。
「何か…増減している」イシェは驚いて言った。「壁の模様が…」
テルヘルは深く頷き、静かに言った。「これは、ヴォルダンが仕込んだ罠だ。しかし、この模様を解読すれば、壁を開けることができるかもしれない」
ラーンの顔色が青ざめた。「罠だと！？逃げよう！」彼はパニックになりそうになったが、イシェが彼の腕を掴んだ。
「落ち着きなさい、ラーン」イシェは冷静に言った。「テルヘルが何とかしてくれるはずです」。彼女はテルヘルの鋭い瞳の中に、希望の光を見出した。