「おい、イシェ!あの石碑、どうだ?」ラーンが興奮気味にイシェの肩を叩いた。イシェは眉間に皺を寄せながら、石碑の刻まれた文字をじっと見つめていた。「まだ解読できていない。古い言語で、複雑な構文なんだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ!もしかしたら大穴のヒントが書いてあるかも!」ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。ラーンはいつもそうだった。遺跡探索はあくまで手段で、目的はあくまで財宝、そしてそれによって手に入れる自由だ。イシェ自身も、いつかあのビレーを離れ、もっと広い世界を見てみたいと思っていた。だが、現実には彼らのような小さな探索隊が、大穴にたどり着く確率は極めて低い。
「よし、わかった。少し時間をかければ解読できると思う」イシェはそう言うと、石碑の表面を丁寧に撫でながら、持ち出した道具を広げた。ラーンの無謀な行動を補うため、彼女はいつも準備を怠らなかった。地図や図面、言語学の書物など、彼女の知識は彼女にとって武器であり、この世界で生き残るための必要条件だった。
その時、背後から冷たく響く声が聞こえた。「なかなか興味深い石碑ね」テルヘルが不気味な笑みを浮かべながら近づいてきた。「どうやら古代語らしいわね。あなたたちには解読できないだろうけど…」彼女はイシェの道具箱を覗き込みながら、ゆっくりと言った。「私には大丈夫よ」
イシェはテルヘルの言葉に警戒心を抱いた。彼女はヴォルダンへの復讐心から、手段を選ばない女だと噂されていた。ラーンは彼女を信頼しているようだったが、イシェには彼女の真意が分からなかった。
「よし、これで準備は整ったわ」テルヘルは石碑の文字を指さしながら言った。「この遺跡には、ヴォルダンが隠した秘密があるはずよ。そして、その秘密を解き明かす鍵はこの石碑にある」
ラーンは目を輝かせ、「つまり、大穴に繋がるヒントなのか!」と叫んだ。イシェは静かに頷いた。テルヘルの言葉の裏には何かがあると感じていた。だが、彼女が何を知っていて、何を企んでいるのかは、まだ誰にも分からない。