「よし、今回はあの崩れた塔だな。噂では地下深く、ヴォルダン時代の遺物が見つかったらしい」
ラーンが拳を握りしめた。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。
「塔の構造は複雑で、崩落箇所も多い。慎重に進まないと危険だ」
「大丈夫だよ、イシェ。俺が先頭切って開けばいいんだろ?ほら、テルヘルさんだってそう言ってるだろ?」
ラーンの視線はテルヘルに向けられた。彼女は薄暗い tavern の奥の席で静かに酒を飲んでいた。鋭い眼光がラーンに釘付けになった。
「慎重さは必要だが、臆病になるな。あの遺跡には我々が欲する物がある。そして、我々はそれを手に入れる」
彼女の言葉にラーンの闘志が燃え上がる。イシェは深くため息をついた。いつも通り、ラーンの無謀さとテルヘルの冷酷さに巻き込まれるのだ。しかし、どこかで彼女たちの言葉を信じたい気持ちもあった。
崩れた塔の入り口に足を踏み入れた時、冷たい風が吹き付け、不気味な音が響き渡った。ラーンは剣を構え、イシェは後をついていった。
塔の中は暗く、埃が舞っていた。崩れた石や朽ちた家具が散らばり、かつての栄華を偲ばせるものがあった。
「ここには何か邪悪な力を感じる…」
イシェが呟いた。ラーンは彼女の言葉に耳を傾けず、遺跡の奥へと進んだ。彼の心は冒険と財宝への渇望で満たされていた。
深まる闇の中、彼らは幾つかの部屋や通路を進んでいった。壁には奇妙な文字が刻まれており、床には腐敗した遺物があった。
「ここはかつてヴォルダン帝国の研究施設だった可能性がある」
イシェはそう言った。ラーンの表情は硬くなった。ヴォルダン帝国は残虐で堕落した帝国であり、その名前を聞くだけで人々は恐怖を感じた。
彼らは塔の一番奥にある部屋にたどり着いた。そこには巨大な石棺が置かれており、その上には奇妙な紋章が刻まれていた。
「これが我々が探す遺物だ」
テルヘルは言った。彼女の目は狂気に満ちていた。
ラーンは石棺に近づき、剣を振り下ろそうとしたその時、突然床が崩れ、ラーンは深い穴に落下した。
「ラーーン!」
イシェの声が響き渡った。しかし、ラーンの姿は見えなくなっていた。
イシェとテルヘルは、ラーンを助け出すために穴を見つめた。その奥には闇が広がり、何か邪悪なものが蠢いているようだった。
「彼はもう戻らないかもしれない…」
イシェは呟いた。テルヘルはただ冷たく笑った。
「彼は自分の愚かさの代償を払うのだ」
彼女の目は、まるで堕落した天使のように輝いていた。