ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝に響き渡った。今日も遺跡へ行く日だ。イシェはいつものように眉間に皺を寄せながら、準備をしていた。「本当にこれで大丈夫なのかしら?あの遺跡は危険だって聞いたわよ」。「大丈夫だよ、大丈夫!大穴が見つかる予感がするんだ!」ラーンの言葉はいつも自信に満ち溢れていたが、イシェには不安しかなかった。
テルヘルは冷静な表情で二人を見下ろしていた。「準備はいいか?今回は特に慎重に進もう」と告げる彼女の言葉に、ラーンは少しだけ顔色を変えた。ヴォルダンからの復讐を誓うテルヘルにとって、遺跡探索は手段の一つに過ぎなかった。彼女には、この地で手に入れた情報が、いつかヴォルダンへの打撃となる日が来ると信じて疑わなかった。
遺跡の入り口は、まるで巨大な獣の口のように大きく開いていた。一歩踏み入れると、冷たい空気が肌を刺す。ラーンはいつものように先頭に立ち、剣を構えた。「よし!行くぞ!」彼の言葉に、イシェは小さくため息をつきながら後ろについて行った。テルヘルは二人を鋭い目で観察しながら、ゆっくりと遺跡の中へと足を踏み入れた。
遺跡の内部は薄暗く、湿った石造りの壁からはカビ臭い匂いが漂っていた。ラーンの足音だけが不気味に響いていた。「ここは…何か違う」イシェは不安そうに呟いた。いつもとは違う、不穏な空気を感じたのだ。
その時、壁から突然、何者かの影が飛び出して来た!ラーンは咄嗟に剣を振り下ろした。鋭い金属音が響き渡る中、影は素早く動き、ラーンの攻撃をかわした。イシェは恐怖で声を失い、テルヘルは冷静に状況を分析していた。
「何だこれは…」ラーンの顔色が険しくなる。影の姿は、人型だが、その体は異様に細長く、皮膚は青白い色をしていた。まるで、生き物のようで、そしてそうでないような不思議な存在だった。
戦いが始まった。ラーンの剣は素早く動き、影を追い詰めるが、影は奇妙なスピードで動き回り、攻撃をかわしていく。イシェは必死に影の動きを分析しながら、ラーンに指示を出す。「左!左に動いて!」
テルヘルは冷静に状況を見極め、影の弱点を探していた。影は強い力を持ち、素早い動きで攻撃するが、その動きにはある程度の規則性があることに気付いた。そして、影は光を嫌うようだ。
ラーンの剣が影に命中した瞬間、影は苦しげな声を上げ、光に向かって消えていった。戦いは終わったが、イシェは恐怖のあまり、震える手足がなかなか止まらなかった。
「あれは何だったんだ…」イシェの声は震えていた。「ヴォルダンとの戦いが始まるとき、このような存在が現れる可能性がある」テルヘルは冷静に言った。「我々は、まだ知らない世界に足を踏み入れているのかもしれない」。ラーンの顔には、いつも通りの豪快な笑みが戻っていたが、彼の目はどこか影を落としていた。