「よし、今日はあの洞窟だ！」ラーンの声はいつも通り明るく、イシェの眉間に皺が寄った。「また、行き当たりばったりか？」彼女はため息をつきながら、準備を整えた。ラーンは洞窟の存在を聞いただけで飛びつくタイプだった。地図や調査など、計画性というものは彼にはない。
「おい、イシェ、お前も少しは夢を見ろよ！」ラーンの笑顔は太陽のように眩しい。「あの洞窟にはきっと、俺たちを豊かにする財宝が眠っているはずだ」彼は目を輝かせながら言った。イシェはそんな彼の姿を見て、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。ラーンの執着は、まるで彼を飲み込みそうな闇のようだった。
「よし、行くぞ！」ラーンが先頭を切り、イシェも渋々についていく。洞窟の入り口には、奇妙な文様が刻まれていた。「何だろう？」イシェが手を伸ばすと、ラーンがそれを阻止した。「触るな、危険だ」彼の視線は、洞窟の奥深くに注がれていた。
洞窟内は暗く、湿った風が吹き抜けてきた。足元には、滑りやすい石ころが転がっている。イシェは慎重に足を運びながら、ラーンの後ろを歩いた。彼はまるで別の世界にいるかのように、夢中で前へ進んでいた。
「何かあるぞ！」ラーンの声に、イシェは急いで駆け寄った。彼の目の前に、巨大な宝箱が置かれていた。宝箱の上には、奇妙な紋章が刻まれていた。「これは…」イシェの視線は、紋章から離れなかった。あの紋章は、彼女が幼い頃に見た本に載っていたものとそっくりだった。
「おい、イシェ、開けろ！」ラーンの声が響く。イシェは宝箱をじっと見つめた。「待て…」彼女は呟いた。「この紋章…何かを意味しているはずだ」彼女の瞳には、恐怖と執着が入り混じっていた。
「何をしているんだ？早く開けてくれ！」ラーンは苛立ちを隠せない。イシェは宝箱の蓋に手を伸ばそうとした瞬間、背後から声がした。「待て！」テルヘルが駆け寄ってきた。彼女の表情は険しく、何かを察知しているようだった。「この場所には近づかないように…」彼女は警告するように言った。
ラーンの執着とイシェの迷い。そしてテルヘルの警告。三者の運命は、この洞窟の中に眠る秘密と共に、ゆっくりと動き出すのだった。