「よし、今日はあの洞窟だな」ラーンが地図を広げると、イシェは眉間にしわを寄せた。「また危険な場所かい？あの洞窟は崩落の噂があるぞ。テツクも言ってたじゃないか、最近遺跡探索で怪我人が続出だって」
「大丈夫だ、イシェ。俺たちならなんとかなるさ」ラーンは豪快に笑う。だがその笑顔には少しばかりの強がりが見え隠れしていた。「それにテルヘルが報酬を上げてくれたんだろ？あの洞窟には何か大きなものがあるって噂だしな」。
イシェはため息をつきながら、準備を始めた。テルヘルの報酬は確かに魅力的だった。だが、イシェはラーンの無謀さにいつもハラハラさせられていた。特に今回はヴォルダンとの関係で、テルヘルが何か隠しているような気がしてならなかった。
洞窟の入り口は暗く、湿った空気が立ち込めていて不気味な雰囲気を漂わせていた。ラーンの持つランタンの光が壁に映し出す影が、まるで生きているかのように蠢いているようだった。「ここだな」テルヘルが言った。彼女は小さな石板を取り出し、壁に埋め込んだ。すると石板から青白い光が放たれ、壁の一部がゆっくりと沈んでいく。
「これは…！」イシェは息を呑んだ。壁の奥には、金や宝石で飾られた豪華な部屋が広がっていた。中央には巨大な棺が置かれており、その上には複雑な模様の刻まれた石板が埋め込まれていた。
「まさか…」ラーンの目は輝き、興奮を抑えきれない様子だった。「大穴だ！ついに大穴を見つけたぞ！」
テルヘルは冷静に石板を調べ始めた。「これは…古代の技術だ。この石板には、ヴォルダンに奪われた失われた知識が埋め込まれている可能性がある」
「ヴォルダン…？」イシェは不安を感じた。テルヘルの目的は遺跡の宝物を探すことではないようだ。彼女は何か別のものを求めている。そしてそれは、ヴォルダンとの因縁と深く関係している。
ラーンは石板に手を伸ばそうとしたが、テルヘルがそれを制止した。「まだだ。この石板には危険な罠が仕掛けられているかもしれない」
イシェはラーンの顔色を見つめた。彼の目は興奮で燃えていたが、そこに潜む危険を彼はまだ理解していなかったようだった。イシェは胸に冷たい恐怖を感じた。この遺跡探索は、彼らにとって大きな転換点になるだろう。そしてその結果、彼らの運命は大きく変わってしまうのかもしれないと。