ビレーの薄暗い酒場「錆びた剣」の片隅で、ラーンはイシェと向かい合っていた。テーブルの上には空になった酒のジョッキが並んでいる。ラーンの顔には疲れの色が濃く、イシェも眉間にしわを寄せている。
「あの遺跡、本当に危険だったな…」
ラーンの言葉にイシェは頷いた。彼らはテルヘルからの依頼で、ヴォルダンとの国境に近い険しい山岳地帯にある遺跡に潜っていた。遺跡内部は複雑な構造で罠が仕掛けられており、さらに謎の怪物が出現するなど、予想外の困難に見舞われたのだ。
「あの巨大な怪物…一体何だったんだ?」
イシェは震える声で呟いた。遺跡の奥深くで遭遇したその怪物は、 grotesquely twisted monstrosity であり、ラーンの剣すら通用しなかった。なんとか逃げ延びることができたものの、イシェにはその恐怖が脳裏に焼き付いて離れない。
「テルヘルも驚いてたよな。あの遺跡は彼女の調査範囲外だったみたいだ」
ラーンは苦笑いした。テルヘルは普段から冷静沈着だが、あの怪物を見たときには表情を歪めていた。彼女もまた、この遺跡の危険さを過小評価していたようだ。
「でもさ…」
ラーンは少しだけ声を高めた。「あの遺跡、奥の方で見つけた遺物があっただろ?あれは確かにすごいものだった」
イシェは小さく頷いた。遺跡の奥深くで発見されたそれは、美しい装飾が施された古代の箱だった。テルヘルによると、その箱にはかつてヴォルダンに奪われた貴重な技術が秘められているという。
「あの遺物を手に入れるために危険を冒す価値があったのか…」
イシェは自問自答したように呟いた。ラーンの豪快な性格とは違い、彼女は常にリスクとリターンを慎重に計算するタイプだった。今回の遺跡探索では、その計算が大きく狂ってしまったと感じていた。
「イシェ、お前も分かってるだろ?」
ラーンはイシェの肩に手を置いた。「俺たちはビレーで暮らすには貧乏すぎるんだ。あの大穴を見つけるまでは、危険な遺跡を探索するしかない」
イシェはラーンの言葉に何も言えなかった。確かに、ビレーでは彼らのような冒険者にとって厳しい現実が待っている。しかし、それでもイシェはどこか不安を感じていた。
「次の依頼は、少し様子を見るようにしようよ…」
イシェは小さくつぶやいた。ラーンの楽観的な態度とは対照的に、彼女はどこか重苦しい予感を抱いていた。圧迫感のようなものが、彼女を包み込んでいくようだった。