「おいイシェ、今日はどれにする?あの崩れかけの塔かな?」ラーンの指が、粗雑な地図に描かれた塔のマークを指す。イシェは眉間にしわを寄せた。「また遺跡か…本当に大穴が見つかるのか、疑わしくなってきたよ。」
「大丈夫だ!今日はきっと何かある気がするんだ!」ラーンは自信満々に笑ったが、イシェにはその笑顔にどこか不安を感じられた。最近、ラーンの行動は以前より荒っぽくなっている。まるで焦りを感じているようだった。
「よし、準備はいいか?」テルヘルが鋭い目で二人を見据えていた。「今日は特に注意が必要だ。ヴォルダンからの情報によると、この遺跡には強力な魔物が封印されているらしい。」
イシェの心臓が大きく跳ねた。ヴォルダンの情報だと?彼女はラーンにちらりと視線を向けたが、彼は相変わらず無邪気に笑っていた。
遺跡に足を踏み入れた瞬間、不気味な静けさに包まれた。埃っぽい空気が喉を刺すように苦く、石造りの壁からは湿った冷たさが伝わってくる。イシェは背筋をゾッとする感覚に襲われた。何かが見ているような気がしたのだ。
「ほら、あれだ!」ラーンの声が響いた。彼は崩れかけた塔の入り口に駆け寄る。イシェはテルヘルと互いに顔を見合わせた。何かがおかしい。この遺跡には、ただのお宝を求める冒険者たちを待ち受けるだけの場所ではないような気がしたのだ。
「待て!ラーン!」イシェが叫んだが、彼はもう戻らない。入り口に近づくと、足元から奇妙な光が湧き上がり、ラーンを包み込んでいく。
「ラーン!」イシェは恐怖で声も出ない。テルヘルは冷静に状況を判断し、イシェの手を取り、「逃げろ!」と叫んだ。しかし、光は二人の間にも広がり始め、視界を歪ませた。
次の瞬間、彼らは見慣れない場所に転げ落ちていた。そこは一面が砂漠が広がる荒涼とした景色だった。遠くには巨大な壁のようなものが見え、その上には不気味な紋章が刻まれていた。
イシェは恐怖で震えた。ラーンはどこにいるのか?そして、ここは一体どこなのか?テルヘルは冷静さを保ちながら、地図を広げて周囲を観察した。「ここは…ヴォルダンの領土だ。」彼女は静かに言った。
イシェは絶望に打ちひしがれた。囲い込み。それはヴォルダンが仕掛けてきた罠だったのかもしれない。そして、ラーンは彼らの犠牲になったのだ。