ラーンの大剣が遺跡の壁を叩き割る音だけが、埃っぽい空間で響いていた。イシェは懐中電灯の光を壁面に当てながら、古代文字らしき模様をなぞった。「ここにも…また同じ記号が出てきた」
「どうした?」ラーンは振り返り、額に汗を滲ませながら言った。「何か見つかったのかい?」
「いや、ただ…」イシェはため息をついた。「この遺跡群、どこかで見たような気がしてならないんだ。以前、テルヘルが持ち出した資料にも似た記号があったような…」
「そんなこと言ってても仕方がないだろう」ラーンは不機嫌そうに言った。「早く財宝の場所を見つけないと、今日の稼ぎは少ないぞ」
イシェはラーンの言葉に反論する気もなかった。確かに、テルヘルは高額の日当を約束していたが、その代償は大きかった。危険な遺跡ばかり探索させられ、彼女の目的にも巻き込まれかねない。イシェは自分がなぜこんな危険な仕事を引き受け続けるのか分からなくなっていた。
その時、突然、壁から不気味な音がした。まるで何かが動き出したかのようだ。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。「まさか…」
「何だ?」テルヘルは鋭い眼光で周囲を警戒しながら言った。「何かいるのか?」
その時、壁の奥から巨大な影がゆっくりと現れた。それは人型の怪物だった。その体は錆びついた鎧で覆われ、赤い目を燃やすように光らせていた。
「これは…」イシェは息をのんだ。この怪物、以前テルヘルが持ち出した資料に載っていた怪物と同じだ。
ラーンは剣を構えて立ち向かった。「行くぞ、イシェ!」
しかし、イシェは動かなかった。あの怪物…一体何の因縁で、なぜここにいるのか?テルヘルの目的とは何なのか?イシェは混乱の中、一つのことに気が付いた。この遺跡、そしてこの怪物、すべてがテルヘルと深く関わっているのだということに。