ラーンの重い腰がようやく上がり、日差しを遮るように茂った木陰から這い出した。イシェの視線を感じながら、彼は小さく咳払いをした。いつも通りの光景だが、今日は何かが違う気がした。
「よし、行こうか。」
イシェは小さく頷き、テルヘルの方へ視線を向けた。彼女はいつものように影の中に佇んでいて、表情を変えることはなかった。ラーンは彼女が何を考えているのか分からず、少しだけ怖かった。
「あの遺跡…あの時…」
イシェの声がかすれていた。ラーンは彼女の言葉を遮るように、「あの時は俺が悪かった」と呟いた。あの日、遺跡で起きたこと。イシェが怪我を負い、テルヘルが激怒した日。ラーンの軽率な行動が招いた結果だった。
「でも…」
イシェの言葉は途絶えた。ラーンは彼女の瞳に映る、あの日の恐怖と、自分への不信感を鮮明に思い出した。あの時、彼は自分の無謀さを認め、深く謝罪したはずだ。だが、イシェの心は癒えることはなかったのかもしれない。
「今日は違うぞ」
ラーンの声は力強く響いた。彼はイシェの手を握りしめ、彼女の視線から目を逸らさなかった。「今回は必ず、お前を守ってやる」
テルヘルは静かに立ち上がった。彼女の目は氷のように冷たかったが、どこかで燃えるような意志を感じ取ることができた。ラーンは彼女に頷き、イシェの手を引き、遺跡へと歩み始めた。
過去を背負いながらも、彼らは前に進む。そして、未来へ向かう決意を新たにする。