ビレーの市場は、いつも騒がしい。行き交う人々の声、商売の声、子供たちの笑い声。ラーンはイシェと一緒に、その喧騒の中を歩いていた。
「今日はいい日だぞ、イシェ!きっと何か大物が出る予感がする!」ラーンは目を輝かせながら言った。イシェはため息をつきながらも、ラーンの肩に軽くぶつかった。「また大穴か?そんな都合の良いもの、簡単に見つかるわけないでしょう。」
二人は今日も遺跡探索の依頼を受けている。依頼主はいつも通り、黒髪の美女テルヘルだ。彼女は冷酷な表情で、二人が向かう遺跡について簡潔に説明した。
「今回は、北部の山脈にある廃墟だ。古代の儀式に使われたらしい。遺物は未知だが、危険な罠がある可能性もある。」テルヘルの言葉は常に短く、そして警告めいたものだった。
ビレーから遺跡までは馬で数日を要する。旅の途中でラーンはイシェに、テルヘルについて尋ねた。「あの女、一体何者なんだ?ヴォルダンに復讐を誓うって言うけど、一体どんな過去があるんだろう?」イシェは深く考え込むように言った。「詳しいことは知らない。ただ、彼女は目的達成のためなら手段を選ばない。私たちもその道具の一人なのかもしれない。」
廃墟に着くと、荒れ果てた石造りの建物が、まるで巨大な獣の骨のようにそびえ立っていた。遺跡に漂う奇妙な静けさの中、ラーンとイシェはテルヘルの指示に従って内部を探検した。壁には古代文字が刻まれており、床には崩れた石像が転がっていた。
彼らは地下深くまで降り、そこには巨大な祭壇があった。祭壇の上には、脈打つような光を放つ球体が置かれていた。ラーンは興奮気味に近づき、手を伸ばそうとしたその時、イシェが制止した。「待て!何か変だ。」
その瞬間、祭壇の周りに設置された石柱から、青い炎が噴き出した。炎は空中に渦を巻き、奇妙な模様を描いて、ラーンの体を包み込んだ。ラーンは叫び声を上げながら地面に倒れ込んだ。イシェは慌てて駆け寄り、彼の体に触れた瞬間、激しい熱を感じた。
「ラーン!」イシェは必死に彼を抱き上げようとしたが、ラーンの体は重く、動かなかった。その時、テルヘルが近づいてきて、冷静な声で言った。「彼は呪いを受けた。この遺跡から逃げるしかない。」
イシェは涙をこらえながら、ラーンの体を背負って遺跡から脱出した。彼らはビレーに戻り、ラーンを治療しようと試みたが、彼の体は冷たくなっており、意識を取り戻すことはなかった。イシェは悲しみに暮れながらも、テルヘルに問いかけた。「一体何が起きたんだ?なぜラーンを犠牲にしたんだ?」
テルヘルは静かに答えた。「彼はこの遺跡の真の目的を理解できる存在だった。そして、その代償として、彼の命が要求されたのだ。」彼女は振り返り、どこか遠くを見つめた。「私は彼を利用した。しかし、彼の死は無駄ではない。彼の犠牲は、私たちの未来につながる。」
イシェはテルヘルの言葉の意味を理解できず、ただラーンの死を悼むことしかできなかった。彼はビレーの街から、ゆっくりと歩き出した。彼の心には、ラーンの笑顔が浮かび上がり、そして、どこか遠くで、回遊する影のように、テルヘルの冷酷な瞳が焼き付いていた。