ラーンの鼻息が荒くなるのがわかった。目の前の壁にはびっしりと奇妙な文様が刻まれており、イシェは指でそっとなぞった。冷たい石肌から伝わってくるのは、まるで脈打つような微かな熱だった。
「これって…もしかして？」
イシェの言葉にラーンはうなずいた。「ああ、あの遺跡と同じだ」
二人は数日前、廃墟と化した巨大都市跡で似た文様を見つけていた。その時は何の変哲もない石碑だったが、触れた途端に空気を震わせるようなエネルギーを感じ、恐怖と共に強い魔力を感じたのだ。
「あの時は逃げ出したけど…今回は違う。テルヘルが言ってたように、この遺跡には何かあるはずだ」
ラーンの瞳に燃える炎は、ただの金銭欲ではなく、何か別のものだった。イシェはその光をじっと見つめた。ラーンはいつも無計画で、危険を顧みない行動を取ることが多い。しかし、彼の根底には揺るぎない信念があった。それは、故郷のビレーを守るため、そしていつかこの世界を変えたいという強い思いから生まれたものだった。
イシェは思い出した。幼い頃にラーンが、星に願い事をした夜のこと。二人はビレーの丘の上で、小さな石を投げながら未来について語り合った。ラーンはいつも「俺たちはビレーを守り、いつかもっと大きな世界へ出て行くんだ」と力強く言った。その目は、今なお同じように輝いている。
「よし、イシェ。準備はいいか？俺たちはこれから大穴を掘り当てるぞ！」
ラーンの言葉に、イシェは小さく頷いた。二人は互いに手を握り合い、遺跡の奥へと踏み入った。背後には、テルヘルが鋭い眼光で二人を見つめていた。彼女もまた、この遺跡に何かを求めている。それは復讐なのか、それとも別の何かなのか。
イシェは深く息を吸い込んだ。どんな未来が待っているのか、誰もわからない。しかし、ラーンの隣にいる限り、どんな困難にも立ち向かえる気がした。