ラーンが、岩屑の下敷きになってうめき声を上げた時、イシェは心臓が止まりそうだった。巨大な石塊は、ラーンの小さな体を覆い尽くすように落ちてきていた。
「ラーン!」
イシェが叫んだ声は、崩れ落ちる石の轟音にかき消された。必死に石をどかしたが、巨大な岩塊は動かなかった。
その時、テルヘルが駆け寄り、イシェの手を掴んだ。彼女の顔には冷静さが戻っていた。「落ち着いて、イシェ。無駄な抵抗はしない。彼を助けられるのは私だ。」
テルヘルは小さな瓶を取り出した。中に入っているのは、鮮やかな青色の液体だった。イシェは見たことがある。かつてテルヘルが、負傷した傭兵に与えた薬だ。その効果は劇的だった。深手を負った男が、まるで魔法のように回復していくのを見たことがある。
「これは…?」
イシェが尋ねると、テルヘルは瓶をラーンの口元に近づけた。「回復薬だ。だが、強力すぎるため、一度に全てを与えることはできない。少しずつ与えなければ」
テルヘルは慎重に、ラーンの口の中に少量の薬を流し込んだ。すると、ラーンの顔色が少しだけ戻り始めた。息が荒く、苦しそうに呻いているものの、命の輝きは消えていなかった。
「大丈夫だ、イシェ。彼はまだ生きている」
テルヘルはそう言うと、再び瓶から薬を注ぎ始めた。イシェは、ラーンの胸がゆっくりと上下するのを確認した。彼の息遣いは弱々しいながらも、確実に強くなっている。
回復はゆっくりとしたものだった。しかし、その過程で、イシェは自分の無力さと、テルヘルの冷酷な冷静さに対する恐怖を感じた。そして同時に、ラーンを救うために、どんな手段も厭わないテルヘルの決意を知った。