ラーンの大斧が、埃まみれの石壁を粉砕した。崩れ落ちた瓦礫の向こうに、イシェが小さく手を振る姿が見えた。
「よし、通れるぞ!」
ラーンの豪快な声は、狭い遺跡の中にもこだました。だがイシェは眉間に皺を寄せ、慎重に足場を確認しながら進む。
「少し待てよ、ラーン。あの石柱、不安定だぞ。崩れたら大変なことになる」
「大丈夫、大丈夫!俺が支えるから。ほら、急いで奥へ進んで、何かいいものが見つかったら大喜びしようぜ!」
イシェはため息をつきながら、ラーンの後を続けた。いつも通りの光景だった。ラーンの無謀さと、それを補う自分の慎重さ。二人はまるで相反する歯車のように噛み合っていた。
遺跡の奥深くへ進むにつれて、空気は重くなり、不気味な静けさの中に不快な響きが漂ってきた。イシェは背筋をゾッとする感覚に襲われた。
「ラーン…」
「どうした?」
「何か変だ…この場所、以前にも来たような気がする…」
イシェはそう言うと、周囲を見回した。崩れかけた壁、苔むした石畳、奇妙な模様が刻まれた石棺…。どこかで見たことがある風景。
その時、イシェの頭の中にフラッシュバックのように記憶が蘇ってきた。幼い頃にラーンと遊びに来た時のことだ。あの時、二人はこの遺跡で迷子になり、恐怖で泣き叫んでいたのだ。
「ラーン、ここ…ここは…」
イシェは言葉を失った。ラーンの顔も青ざめていた。二人は互いに視線を交わし、小さく頷いた。
「…そうだ、ここに来たことがある」
ラーンの声が震えていた。
「あの時、俺たちは…ここに何かを埋めたんだ…」
イシェの記憶は鮮明に蘇ってきた。あの時、二人はこの遺跡で不思議な石を拾い、恐る恐る地面に埋めようと決意したのだ。
「あの石…あの石は何だったんだろう…」
ラーンの視線が、崩れかけた壁の一角に落ちた石棺に向けられた。そこには、イシェが幼い頃に見た、奇妙な模様の石碑があった。
イシェは、自分がこの場所で何かを繰り返す運命にあるのかもしれないという恐怖を感じた。そして、同時に、この遺跡が彼らを呼び戻した理由、そして、その背後にある真実を知りたいという強い欲望に駆られた。