ビレーの酒場に響き渡る笑い声は、ラーンのものであった。イシェは苦笑しながら彼の肩を軽く叩いた。「また大げさな話をしてるじゃないか。」「いや、本当だ！あの遺跡の奥底には、黄金でできた巨大な像があったんだ！触ろうとしたら崩れ始めて、逃げ出したんだ！」ラーンの目は輝いていたが、イシェはそんな彼を見て複雑な気持ちになった。彼の夢を共有したい気持ちもあるが、その無謀さにイシェ自身も巻き込まれるのではないかと不安になることもあった。
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。「準備はいいか？」彼女は冷たく、しかし鋭い視線をラーンとイシェに向けながら言った。「今日はヴォルダン領境に近づく遺跡だ。危険が高いことを覚悟しておく必要がある。」ラーンの顔色が一瞬曇ったが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。「大丈夫だ！俺たちならどんな危険も乗り越えられる！」
遺跡の入り口は暗く、湿り気のある空気が漂っていた。イシェは背筋をゾッとするような感覚に襲われた。テルヘルは地図を広げながら、「この遺跡には、ヴォルダンが何か隠しているらしい。我々はそれを奪い出すんだ。」と説明した。ラーンの表情は真剣になった。「ヴォルダンか…俺たちは一体何をしているんだろうな…」イシェは彼の言葉に耳を傾けながらも、テルヘルの真意を疑う自分がいた。彼女の目的は本当にヴォルダンへの復讐だけなのか？
遺跡の奥深くへ進むにつれて、空気が重くなっていった。壁には奇妙な文字が刻まれており、不気味な光が揺らめいている。イシェは背後から何かを見張っているような気配を感じ、振り返るとラーンが剣を構えていた。「何かいる…」彼の声は震えていた。
突然、壁の奥から巨大な影が現れた。それは獣のような姿をした怪物で、鋭い牙と爪を持つ恐ろしい存在だった。ラーンは立ち向かったが、その力は圧倒的で、すぐに吹き飛ばされてしまった。イシェは絶望的な気持ちに襲われたが、その時テルヘルが前に出た。「待て！」彼女は怪物の目を見つめながら、「お前を操っているのは誰だ？」と問いかけた。
すると怪物の体は一瞬光り、その中に人間の影が浮かび上がった。それはヴォルダンの紋章を刻んだ鎧を着た男だった。「…囚われの身だ…」男は苦しそうに言った。テルヘルの表情が硬くなった。「ヴォルダンは一体何を企んでいるのか…」
イシェはラーンとテルヘルが怪物を倒すために奮闘する様子を見つめていた。彼らの姿は小さく、弱々しく見えた。しかし、それでもなお立ち向かう彼らの勇気には、イシェ自身も心を動かされた。そして、この戦いの中に、自分が囚われていることに気づき始めた。それはヴォルダンへの復讐という目的、そしてラーンの夢に巻き込まれていく自分自身の囚われだった。