「おいラーン、あの遺跡、また噂らしいぞ」イシェが、いつものように慎重な口調で言った。ラーンは、石畳の上で寝転がりながら、「またかよ、そんなの毎日聞くわ」と、不機嫌に答えた。
ビレーの酒場で流れる噂話といえば、ほとんどが誇張されたり、作り話だったりする。実際、イシェが言う「噂」も、その一つだったかもしれない。しかし、イシェは眉間にしわを寄せ、「今回は違う気がするんだ」と、力強く言った。「あの遺跡から、奇妙な光が出たって言うんだ。夜中にね。しかも、その光を見た人たちは、みんな記憶を失ってるらしい」
ラーンは、イシェの言葉に少しだけ興味を示した。「記憶を失うって…?それは確かに怪しいな。でも、そんな噂で、俺たちが遺跡に潜るわけないだろ?」
「そうだな…」イシェも、少し諦めた様子になった。「でも、テルヘルはどう思うかな?あの人の目的はヴォルダンへの復讐だと言ってるけど、もしかしたら、何か別の理由があるんじゃないか…って」
ラーンの目つきが鋭くなった。「お前、テルヘルを疑ってるのか?」
「いや、そうじゃない…」イシェは慌てて言った。「ただ、あの遺跡についてもっと知りたいって思っただけなんだ。もし、本当に何か危険な物があったら…」
ラーンは立ち上がり、イシェの目をじっと見つめた。「わかった。俺たちが行くぞ。噂を確かめてみる。そして、もし、本当に危険な物があったら…お前が言うように、テルヘルに相談だ」
イシェは、少し安心した表情を見せた。「ありがとう、ラーン。でも…」
ラーンの言葉は、イシェの言葉を遮った。「あの遺跡から、何か掘り出せれば、きっと大穴になるぞ!」
イシェは、ラーンの豪快な笑みに対して、小さく微笑んだ。二人は、夕暮れのビレーを背に、噂の遺跡へと向かうため、歩き始めた。