「よし、今日はあの崩れかけの塔だな」ラーンが豪快に笑う。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。「また大穴探しか? ラーン、あの塔は危険だって聞いたぞ。遺跡探索者たちが何人か行方不明になってるんだ」
「そんな噂を信じるなよ! 必ず何か見つけられるはずだ!」ラーンの瞳には確信が宿っていた。イシェはため息をつきながら地図をしまう。「わかった、わかった。でも今回は用心しなきゃいけないぞ」。
二人はテルヘルに合流し、辺境の街ビレーから塔へと続く道を進んだ。道中、彼らは廃墟となった村に立ち寄った。かつて人々が暮らしていた痕跡が残るその風景は、今は静寂に包まれていた。イシェは村の子供たちが遊んでいた跡をじっと見つめていた。「何かあったのかな?」ラーンが尋ねると、イシェは小さく頷いた。「ヴォルダン軍の襲撃があったらしい。生き残った人はほとんどいない」
テルヘルは冷たく言った。「ヴォルダンには容赦はない。いつか必ず復讐を果たす」彼女は握りしめた拳を緩め、先に進むように促した。ラーンはイシェに視線を向け、「お前も何かあったのか?」と問いかけた。イシェはしばらく沈黙した後、小さく頷いた。「ああ、故郷の村もヴォルダンに襲われたんだ…」
塔へと続く道は険しく、崩れかけた石段を慎重に登っていく。ラーンの軽快な足取りとは対照的に、イシェとテルヘルは重苦しい雰囲気に包まれていた。
ついに塔にたどり着くと、そこにはかつての栄華を感じさせる壮大な建築物があった。しかし、今は崩れかけ、苔むした壁からは野獣の咆哮が聞こえてきた。「よし、ここだ!」ラーンは剣を抜き、塔の中へと踏み込んだ。イシェとテルヘルも後を追う。
塔内部は薄暗く、埃っぽい空気で満たされていた。床には崩れ落ちた石や朽ち果てた家具が散乱し、壁には奇妙な文字が刻まれていた。ラーンは興奮気味に遺物を探したが、イシェは警戒心を怠らなかった。
「何かいる…」イシェの耳をつんざくような獣の咆哮が響き渡った。「気をつけろ!」ラーンの警告と共に、巨大な影が彼らに襲いかかってきた。
激しい戦いが始まった。ラーンは剣を振り回し、獣を攻撃するが、その力は強靭で、なかなか倒せない。イシェは機転を利かせて罠を仕掛け、獣の動きを封じる。テルヘルは冷静に戦況を分析し、ラーンの隙を補いながら戦う。
激しい攻防の後、ついに獣を倒すことに成功した。しかし、その代償は大きかった。ラーンは深い傷を負い、イシェも体力を消耗していた。
「もう限界だ…」イシェが弱々しく呟いた。「無理に続けると命が危ない」テルヘルは冷静に判断し、撤退を決めた。
塔から脱出し、辺境の街ビレーに戻った時、夜が更けていた。ラーンは疲れた顔で言った。「今回は運が良かったな…あの塔には何か危険なものが潜んでいる気がする」イシェは頷き、「もう二度とあの塔には近づかない」と誓った。
テルヘルは二つの宝石を手に取り、静かに呟いた。「ヴォルダンへの復讐のために、どんな犠牲も厭わない…」彼女の瞳には冷たい光が宿っていた。