ラーンの粗雑な足音だけが、埃っぽい遺跡の静寂を破る。イシェは彼を睨みつけながら、足元の崩れそうな石段を慎重に登っていく。
「本当にここなのか? また騙されてないよな?」
イシェの言葉に、ラーンは不機嫌そうに肩をすくめた。
「あいつは嘘つかないだろう。それに、あの地図は本物だったはずだ。」
地図は、テルヘルが持ち出したもの。ヴォルダンとの戦いで得たという、古代遺跡の場所を示すものだ。テルヘルは、その遺跡にはヴォルダンを滅ぼす力があると信じて疑わなかった。ラーンとイシェは、高額の日当に釣られて彼女の依頼を引き受けたのだ。
しかし、ここ数日、彼らは迷路のような地下通路をさまよい続けている。行き止まりばかりで、宝の影さえ感じられない。イシェは疲れ果てていた。
「もういいよ。諦めよう。」
ラーンの背中は、イシェの言葉を無視して、さらに奥へと進んでいく。イシェはため息をつき、仕方なく後を追う。
すると、 ahead、薄暗い通路の先に、何か光が輝いていることに気づいた。
「あれは…?」
イシェの声に、ラーンも振り返った。二人の視線は、光に向かって集まる。それは、石でできた祭壇の上に置かれた、美しい水晶球だった。
「やった!ついに…」
ラーンの興奮を覚ますように、テルヘルが後ろから現れた。
「いい仕事したわ。これでヴォルダンとの戦いに一歩近づける。」
彼女は水晶球に手を伸ばす。その時、地面が激しく揺れ始めた。天井から塵埃が降り注ぎ、通路は崩れ始める。
イシェは恐怖で目を閉じた。ラーンの叫び声が、崩れ落ちる石の轟音にかき消されていく。
そして、静寂が訪れた。
イシェはゆっくりと目を覚ます。彼女は rubble の上に横たわっていた。頭が痛く、視界もぼやけている。
「ラーン?テルヘル?」
声にならない小さな声で呼びかけるが、返事はなかった。イシェは恐怖で体が震えた。
すると、遠くからかすかな声が聞こえてきた。それは、テルヘルの声だった。
「…私の計画は失敗した。だが、まだ諦めない…」
イシェは立ち上がる。足元には、割れた水晶球が転がっていた。その中からは、黒く濁った液体があふれ出ている。
イシェは、自分の無力さと、失われた仲間たちのことを思うと、小さく嘆息した。