ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝の霧の中にこだました。イシェが眉間に皺を寄せながら、彼の背中に「本当に大穴が見つかると思っているのか？」と呟いた。ラーンは振り返り、にこやかに笑った。「もちろんだ！今日はきっと何か見つかる予感がするぜ！」
イシェはため息をつき、小さな革袋からパンを取り出した。テルヘルが用意した食料だ。高額な日当に見せかけられても、実際には質素なものばかりである。テルヘルは「効率的」と称して無駄を省くことを好み、その嗜好はイシェの懐を痛めていた。
遺跡への道は険しい山道を進み、足元が不安定な場所もあった。ラーンは軽々と進んでいくが、イシェは慎重に足を運びながら周囲を見回す。テルヘルは二人が話すのを聞かずに、地図を広げながら何かを呟いていた。彼女は常に冷静で、感情を表面に出すことは少ない。その冷徹さはイシェには少し怖いものを感じさせた。
遺跡の入り口は崩れかけており、石化した植物が奇妙な模様を描いているように見える。ラーンの興奮が高まっているのが伝わってくる。「よし、行こうぜ！」と、彼は剣を抜いて先頭を歩いた。イシェは彼を見つめながら「気を付けて」と呟き、テルヘルに続いて遺跡の中へと入った。
薄暗い通路には埃が舞っており、足音だけが響いている。壁には古代の文字が刻まれており、ラーンは興味津々に近づいていく。「これは何だろうな？」
イシェは彼の肩を掴んで引き戻した。「触らないで！わからないものに触れるのは危険だ」と警告する。テルヘルは二人がやり取りをしている間、壁に書かれた文字をメモしていた。彼女は知識欲が強く、遺跡の謎を解明することに執念深い。
奥深くへと進むにつれて、空気が重く、何かが不気味に変化していくのが感じられた。イシェは背筋が凍りつくような感覚に襲われた。ラーンの顔色も険しくなっていた。「何かいる気がする…」彼は剣を握りしめ、周囲を警戒しながら歩を進めた。
その時、壁の奥から鈍い音が響き渡った。ラーンはすぐに反応し、剣を構えた。「何だ！」
音の方向へゆっくりと進むと、そこには巨大な石像が立っていた。その石像はまるで生きているかのように、不気味に光り輝いていた。イシェは息をのんだ。ラーンの顔も硬く引き締まっている。
テルヘルは冷静に石像を分析し、「これは古代の守護者だ。触れるもの全てを攻撃する」と告げた。彼女の目は冷たく、 analytical に輝いている。「避けて通るにはどうすればいい？」とラーンが尋ねた。テルヘルは地図を広げ、複雑な記号を指さしながら説明を始めた。
イシェは石像の光に照らされたラーンの顔を見つめた。彼はいつも無鉄砲で、考えなしに行動する。しかし、今この瞬間、彼は真剣な表情でテルヘルの指示に従っている。イシェは彼を信じたいと思った。そして、いつか本当に「大穴」を見つける日が来るかもしれないと、少しだけ期待した。